練習が始まって少し経って、みょうじがなにか部室に忘れ物をしたと言っていたのを聞いた。他のマネージャーに「ちょっと取りに行って来ますね」とかなんとか声をかけて、小走りに棟の方へかけていった。そこまでは見てた。
だいぶ経っても帰ってこないみたいだった。なにしてんだろ。…サボり?
マネージャーの一人が様子を見に行ったみたいだった。
‐‐
一緒に練習してた神童は気にしてるっぽかった。
「なに、気になる?」
「最近あいつずっと、顔色悪かっただろ」
「…だっけ?」
特に気にしてもなかった。元気なように見えたし。毎日朝から「浜野先輩!」と声を聞いてた。
神童は思い悩んでるみたいだし「ちょっと風邪でもひいてんじゃね」と言うと、顔をしかめて
「それならそれで心配だ」
人間誰でも体調不良くらい起こすって。ほら、最近暑いしさ。神童はそんな風に思えないみたいだけど。
この間まで風邪ひいてたし、夏風邪は治りにくいものだ。また振り返したのかもしれないじゃん。
‐‐
みょうじを見に行ったマネージャーはしばらくして戻ってきて、今度は顧問を連れていった。あいつが部室で倒れていたと聞けたのは、もう帰る頃だった。でも、救急車が学校の駐車場に停まっているのは見ていたし、大体の予想はついていた。
翌日からみょうじはまた学校を休み、俺達には「風邪をこじらせたみたい」と説明された。まだ初夏で、暑かったり寒かったりするからな。そういうものか。…引っ掛かるけど、気にするのが嫌だった。みょうじになにかあったって、知りたくない。
部員の何人かが見舞いに行くとかいう話が出たけど、断った。見舞いに行った次の日、「お前もいつか行ってやれよ」と病室の場所を教えられた。…風邪なのに入院?おおげさだなあ。
なんで俺が行かなくちゃいけないのか理由を考えてみた。同じ部活をしてるから、マネージャーだから、風邪をこじらせて可哀相だから。しっくりはこない。
いつか、って神童の言葉もよく考えれば引っ掛かる。すぐに治って退院するもんだろ、風邪なんか。「いつか」って、まるでずっと入院してるみたいじゃん。
‐‐
苦手、っちゅうか。嫌いになる理由は今思うとそんなに無い。一応俺を慕ってくれてた後輩なのに、なんでこんなに苦手だと思うんだろ。
ふと授業中にそう思って、休み時間に速水に聞いた。
「みょうじのことどう思う?」
「んん、マネージャーのですか?」
「そ。入院してるやつ」
ちょっと考える。それから。
「まあいい人だと思いますけど」
「そか、へえ」
「急にどうしたんですか?」
いい人。速水らしい回答だとは思う。
今度は神童に聞いた。なにも答えずに顔を真っ青にして、しばらくして「やっぱりみょうじが嫌いなのか」と聞き返された。
「は?」
「みょうじは頑張ってる。努力が報われると思ってもいる」
努力家という風には見えないけどな。人に見えないところでの努力ってやつ?
「昨日俺らが病院まで行ったの知ってるだろ」
「ああ、えっと…稲妻総合病院だっけ」
こくんと頷く。
「病室に入ったら、浜野先輩はお元気ですかってさ」
「分かりきってるじゃん」
「お前が来なくて残念ってことだ」
そうなるか?うん、なるかも。
残念とか言われるなら、見舞いくらい行ってみるべきかもな。神童の眼光が鋭くて、それに押されてってのもある。
今度の、日曜にしよう。
110808
加筆修正120308
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -