ある程度ではあるけれど体調も良くなって、両親に心配されながら学校に来た。たかが一週間とはいえ、とても久しぶりに思えた。一週間ぶりに来た学校では、教室に着くとクラスメイトたちが「どうしたの」と体調を気遣ってくれた。特に葵ちゃんはメールもくれていたのに返せずにいたし、本当に申し訳ない。
 部活でもそれは同じで、「朝練は来れなくてすみません」と謝ると「病み上がりなんだから仕方ないよ」と山菜先輩は快く許してくれた。「もう大丈夫なのか?」と瀬戸先輩には心配されてしまったし。

「浜野先輩」

 久しぶりに名前を呼べた。ちょっとだけ、幸せ。

「おう、みょうじ」

 先輩もわたしを呼ぶ。きっと先輩からしたらなんでもないやり取りなんだろうけど、そうと分かっていても嬉しい。
 あとどれくらい、こんな風に話せるのかな。

「で、どした?」
「え?」
「みょうじから呼んだんだろー?」

 苦笑いする先輩。ど、どうしよう。なにか言いたいことがあったはずなのに、声をかけたら忘れちゃった。

「えっと、あの…練習、頑張ってください」

 「当然」と言って先輩はわたしの頭を撫でた。
 胸が苦しい。…先輩が、好きだ。
‐‐

 練習に普段と変わったことはなかったけれど、部活に来られる回数を考えると特別に思えた。浜野先輩はきらきらして見える。たぶん、浜野先輩と会える回数もどこかで考えてしまってるんだと思う。
 休憩になれば真っ先にタオルを渡す。先輩がありがとうを言ってくれるのがただ嬉しくて、幸せな気持ちになれる。

「みょうじさんはいつから浜野くんが好きなの?」

 休憩も終わって、何気無しに山菜先輩の隣に腰を降ろすなり、そう言われた。

「な、な、なに言ってるんですか!」
「見てれば分かるよ」
「え、…そうでしょうか」
「うん」

 そんな、なんてことだろう。山菜先輩は微笑みながら、「いつから?」と質問を繰り返す。

「どうしてそんなことを」
「気になるから?」
「むむ…」

 わたしが答えないと、駄目なのかな。先輩はまた繰り返した。いつから、というのは自分でも分かってる。答えやすい質問ではあるんだ、一応。
 少し恥ずかしい。こんなガールズトークのようなこと、今までしたことがなかった。

「…入学する前に、試合を見たことがあって」
「わあ。結構前からなんだね」
「で、でも。あの。秘密です」
「分かってる。誰にも内緒ね?」

 先輩は相変わらずゆっくりと言葉を放つ。口調と、柔らかい笑顔のせいでなんだかすべて話してしまいそうになる。

「浜野先輩、すごくかっこいいんです」
「ん、シン様も素敵だよ」

 さすが先輩。思わず吹き出しちゃったよ。少し笑いながら「そうですね」と同意しておく。確かにキャプテンは、素敵な人だもの。
‐‐

 処方されたお薬はわたしの病気を「治す」のではなく、主に進行を遅らせるためのものらしい。
 お昼休みは昼食を食べてから、水筒を片手に教室から離れる。さすがにごまかせないような量の薬だし、わたしが病気であることは誰にも、知らせたくない。

 ここしばらく、顔色が悪いと言われることが多くなった。確かに、あまり顔色がいいとは思えない。…なんとかならないかなあ。
 鏡を見てみると、なんだかやつれた自分の顔があった。
‐‐

 それから体調を崩すことも何度かあった。それでもなんとか学校には通えていたし、マネージャーとして練習にも顔を出せていた。
 もうすぐホーリーロードの地区予選が終わる。雷門はなんの問題も無く、決勝まで勝ち進んでいた。先輩が活躍する姿が見られて、勝ち進むたびに先輩の笑顔が見られて、マネージャーになって良かったと改めて思う。先輩のこと、ずっと見ていたいな。
 叶わない願いほど、強く願ってしまうものだと思う。よく昔は「死んだら人はお星さまになる」なんて聞かされたけれど、本当にそうだったらよかったのにな。そうしたら、ずっとずっと、先輩を見ていられるのに。


110807
加筆修正120308

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