わたしは余命数ヶ月というやつなのだそうだ。
 随分前から気付いていた。自分の身体がわけのわからない病気に蝕まれていたこと。それが、おそらく治らないこと。
 お医者さんにいわゆる余命宣告をされても、あまり悲しさや悔しさは感じなかった。「やっぱり、そうなんだ」というのが感想だった。客観的に物事を見るのがこの場合いいことなのか、わたしには分からない。
 今までの十三年間は楽しかった。もうすぐ終わってしまうのはすごく悲しいけれど、生にしがみつこうという気も起きない。いつからか、わたしは死ぬと分かっていた。
 あえて言うのなら、一つだけ心残りがある。
‐‐

 両親の母校だからと、わたしはサッカーで有名な雷門を受験しようと決めていた。サッカーのルールなんて、手を使ってはいけないとしか知らなかったけれど、せっかくサッカーで有名なのだからと試合を観戦しに行った。小六の夏だったと思う。暑い中出掛けることを、お母さんは気にかけていた。あの頃は、余命なんて分かってなかったな。
 とにかく試合を観戦し、彼を見てしまった。遠くに見えた、選手の一員。きっと一目惚れっていうのだと思う。話もしたことがないのに、好きになってしまった。
 実況を聞く限り、彼は中学一年生の新人だそうだ。わたしと一つ違いなら、入学すれば会える。それまで以上に、雷門に入学したいと思った瞬間だった。

 入学後、まっさきに向かったのはサッカー部だった。マネージャー歓迎、と言われ、優しそうな先輩方に迎えられた。
 そして選手の一人に、彼がいた。浜野先輩、とわたしは彼を呼ぶ。おおらかで、いい先輩で、憧れの人だった。


110801
加筆修正120308

- ナノ -