そこにアイスがあったら食べるじゃないですか。
キムタクのCMでも砂漠の商人はラクダを見ると旅したくなる、僕はフォルダを見ると旅したくなる、っていうじゃないですか。
だから、そこにマスターがいたら抱き着くじゃないですか。

ここまで言ってマスターのアッパーをいただきました。うん、ナイスアッパー!
けっこう前に火事場の馬鹿力という言葉を聞きました。それと似てます。
マスターは本能的に僕を殴ったので、ものすごい力が出てました。死ぬかと思いました。まあマスターがここにいる限り死ねませんけど。


ことの始まりはそう、マスターがいけないんです。お風呂に入ったあとマスターはいつも寝巻に着替えて出てきます。
でも今日は違った。
寝巻をお風呂場に持って行かなかったとかでタオル一枚巻いて出てきたんです。
それだから僕もマスターに抱き着いたわけです。
え、理由?それはまあ本能とかいろいろ大人の事情です。プライバシーを主張しておきますね。

抱き着いたらマスターは照れて僕の鳩尾に一発、どきついのをくれました。
かわいいですね、照れ隠しなんかしちゃって。これがツンデレっていうんでしょうね。まだデレがきませんけどね。
マスターはぷんぷん怒りながら僕を叱り付けます。
いかにタオル一枚のマスターに抱き着くことが変態的であるか、タオル一枚のマスターにお説教されました。
そこで僕もまた主張をしようと冒頭の台詞を言ったらアッパーくらったわけです。

「もう…今日のカイトおかしい!」

「おかしくないです、本能に従ったまでです」

「やっぱりおかしいー!」

「おかしくないですー!」

頭を抱えるマスター。
どこもおかしくないのに。すごく普通なのに。

「カイトがばかじゃない!」

「僕だって少しは学習しますー」

「学習なんかしないもん…カイトはばかだもん…」

「僕を何だと思ってるんですか」

「バカイト」

それから僕は語りました。
男というものの危険性について、それはもう熱く。

マスターはきっと耐性がないんです。乙女なマスターも素敵だと思いますけどね。
少しはこう、そういうことも知っていないとこの苦しい世の中で生きていけないはずです。

「カイトは男じゃないもん」

「僕だって一応男ですよ」

「そんな、…ん!」

ぐいっとマスターを引き寄せて、唇を奪う。
マスターは一瞬なにがおこったのか分からない様子で、目をぱちくりしていた。

「か、カイト…?」

「分かったでしょう、男がき、け…」

危険、と言おうとした次の瞬間、マスターの拳がスローモーションで迫っていた。
マスターとの思い出が頭の中を駆け巡る。ああ、これが走馬灯か…。
グッバイマスター。さようなら
薄れゆく意識の中で、マスターの「ファーストキスの罪は重い」という男らしい一言が聞こえた。


100209

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