ぐすぐす鼻を啜る音と、小さな声が部屋に響く。
私のマスターは、ちょっと泣き虫な女の子です。
新学期、それは出会いの季節。人と接するのが得意な子なら、わくわくするのかもしれませんが、マスターは人見知りがちで口数も多くはありません。それだけではなく、マスターの短所である(ある意味長所ですが)ドジを発揮してしまったらしく、先程から「もう学校行きたくない」と引きこもり宣言をしています。「引きこもってしまったら、毎日私と家で遊べる」なんて嬉しいことを言っていますが、将来ニートのマスターなんて嫌なので必死に説得しています。
「せっかくの高校生活じゃないですか」
「最初から失敗したんだもん」
「友達たくさん作るって言ってたじゃないですか」
「もう出来るわけないもん」
「制服だってこんなにかわいいのに」
「私服の方がかわいいもん」
「大学行けませんよ」
「夜間学校行くもん」
「毎日なにするつもりですか」
「ネットと読書だもん」
はいはい論破論破。
というか、全く話を聞く気がない。あって言おうが、いって言おうがやだやだ言いそうな程の拒絶だ。
「だってだって私が転んだ時、みんな笑ったんだもん…」
「マスター…」
マスターは自己紹介の時間にすっ転んだらしい。あえてマスターは「転んだ」とだけ言っているが、本当は相当派手な転び方をしたのだろう。まあ、笑ってしまう気持ちも分からなくはない。新しいクラスの中での張り詰めた空気、そこに、お笑い番組を思い起こさせるほど派手に転ぶ女の子。ぷっ、くすくす。顔を見合わせて、みんな笑ったんだろう。
「とりあえず一日、明日だけでいいですから学校行ってみてください」
「やだ!」
「もう高校生じゃないですか。ブログにも"もうJKだよー"って書いたじゃないですか」
「やだ」
「毎日おめかしするんだって、お化粧品からなにから揃えたじゃないですか」
「それとこれとは関係ないの!」
「関係あります!」
「…まあ、そうかもしれないけど」
「友達たくさん作るって、一生仲良く出来るような友達作りたいって…言ったじゃないですか」
「………」
「今日だって、少しは周りの子と話したんじゃないですか?」
「………そうだけど」
「明日になればまた話して、友達になれますよ」
ここまで言って一息つく。
マスターはだんだん、気持ちが傾いてきた。もちろん、「学校に行ってみる」という方にだ。
「一日だけなら…」
「…?」
「……一日だけ、行ってみる」
「ミク!」
マスターの足音が近づいて来る。
「と、友達が、できたよ!」
息を切らしてマスターは言う。
この分だと、駅から走ってきたに違いない。そんなに私に報告しようとしてくれたのかな
「よかったですね」
「うん!」
100413
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