実家に帰ると「これ持って行きなさい」と私の好物を渡された。甘栗。親指の破壊力に定評のある甘栗をごっそりいただいたのだ。
自宅に戻ってそれをミクに見せると、不思議そうな顔をしつつ「栗って黄色いんじゃないですか?」と言った。その瞬間、今の都会っ子はコンニャクが海の生物とか、魚の切り身が海を泳いでいるとか勘違いしていると言う情報を思い出した。ミクにとって「栗」とは、「甘栗むいちゃいました」か「モンブラン」だったのだろう。…ああそうだ「栗ごはん」もあったな。うう、お腹すいてきた。

「これをむくとあの黄色いのが出てくるんだよ」
「本当ですか!?」
「あっちょっミク…!」

紙袋から一つ栗を手にとり、てっぺんの角からむこうとするミク。爪がぐにゃりと歪む。そして「いたっ」というミクの声。

「そこからむくんじゃないんだよ…」
「早く言ってくださいよう…」
「ごめん…。とりあえず手洗ってから食べようね」
「はーい!」

公式設定だと十六歳のはず、でもミクの精神年齢はもっと低いんじゃないかと思う。いや、純粋でかわいいという意味で。



ハンドソープを丹念に泡立てて、きちんと私が教えた通り手を洗うミク。泡を洗い流したかと思えば、うがいまで始めた。

「ずっと家にいたのにうがい?」
「そ、そうでした…つい惰性で」

うがい自体は悪くないんだけどね、と思いつつ苦笑い。そしてえらい子だなあと感心。手洗いうがいはセットって教えたことが生きてるんだなあ…。



「栗の平らな部分をね、パキッて親指で割るんだよ」
「おおっすごいです!」

目を輝かせるミクに「やってごらん」と言うと、それはそれは嬉しそうに返事をした。うん、素直でよろしい。

「……マスター、黄色いのが、黄色いのが、ぐちゃぐちゃに…!」

実際にやってみたところ、どうやら力を込めすぎたらしく、中身がボロボロになってしまったようだ。

「私がむいたやつあげるから」
「ほんとですかっ?」
「うん。はい」
「や、そこは…あーん」

やっぱり精神年齢低い。本物の十六歳なら、こんなに甘え上手なはずないもの。


100922

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