もしものはなしだよ、もしもの。

そう言ってロココは話し出す。ロココは私がいれたお茶を一口飲んで、また口を開く。「きみの国のことをもっと知りたい」と言うからいれた緑茶だったけど、口に合ったのだろうか。ロココが飲んだように私も緑茶を口に含む。甘くない。

もしも、君が僕の幼なじみだったら。そうしたら僕は君のことをたくさんたくさん知ってるんだろうね。その分君も僕のことを知ってくれるよね。だって実際、僕の幼なじみは僕をよく知っているし、僕もみんなのことをよく知ってる。

私はまたお茶をすする。ロココは一息置く。私の反応を伺っているのかと思えば、そうでもないみたいだ。私は特に相槌を打つでもなく、ただロココを見つめた。ロココは私ではないどこか、宙を見ているようだった。

もしも、僕がサッカーをしていなかったら。僕のサッカーが下手くそだったら。そうしたら今ここに僕はいないし、君とは出会えないんだろうね。僕はまだ地元にいて、まだからかわれる弱い人間だったかもしれない。

ロココはソファーの柔らかさを確かめるように、座りなおした。深い緑色のお茶はもう湯気を放っていない。ロココは湯呑みに一回触れたが、それを持ち上げることはしなかった。

もしも、君がイナズマジャパンのマネージャーじゃなかったら。ただの女の子で、きっと日本にいたんだろうね。もしテレビだとかの媒体を通して僕を見たとしても、ただどこかの国のサッカーチームの選手なんだなあとしか思わないんだろう。僕は君の存在を知らないままだ。

ロココは私の目を見つめた。真っ黒い瞳が私を見つめる。ロココの話はおしまいなんだろうか。私の反応を待っているんだろうか。よく分からないが、私は思い付いた言葉を口に出してみることにした。

「結局、なにが言いたいの?」
「あれ、分からなかった?」

今までのよく分からない演説でなにを感じ取ればよかったのだろう。ロココはお茶をゆっくり飲む、はあ、とため息をついてもう一口。

「ねえロココってば」
「……、僕は君のことをたくさん知りたいし、君と会えてすごく嬉しいし、君と仲良くなれて本当によかったと思うんだ」
「あ、ああ…そうなの。私もそうだな、そう思うよ」
「それで、もう少し話続けていい?」
「うん」

もしも、君が僕とこれからもずっと一緒にいたら。僕も君も幸せで満たされると思うんだ。そうだよね。

ロココはそう言ってにこっと笑った。私は恥ずかしくなってしまったから「そうだね」と心の中で呟いた。たぶんロココには聞こえてしまったと思う。



「ところでこのお茶苦いね。砂糖とか牛乳とか入れないの?」
「…入れたかったら入れるといいよ」


101127
もしももしももしも

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