いつもうるさいよね、わいわいがやがや。
テンションが高くって、君はすっごくうるさいよ。

いらいらしていたのかもしれない。なにか、理由もなく彼を突っぱねてやりたいと思った。彼のアイデンティティでもある部分を、冷たい視線と冷たい言葉で、私は猛烈に批判した。
私の言葉を聞いて、彼のいつもの笑顔は消えた。悲しそうで、でも苛々しているような、読み取れない表情に変わった。ただ言えることは、それは普段の彼が持つどの表情でもないことだけだった。
いつもと違う彼を見て、なんだか怖くなってしまった。自分からひどいことを言っておいて、逃げ出したくなるなんて卑怯だし、最低だと思うけれど。でもこんなの、秀じゃない。

「………あのさぁ、」

閉ざされていた口を、小さく開いて声を発した。これも普段とは違う。小さいのに、通る声。こんな声、出せたんだ。
それにびっくりしていると、今度は急に腕を掴まれた。少しだけ、痛い。それに、掴まれた時体がびくんとはねてしまった。もうやだ、どうしてこんなに怖いの。

「そんなにびっくりしなくてもいいのに」

「………それで?」

なにか言われるかな。私の短所、とか。もちろん言われる覚悟で、うるさいと言ったのだけれど、態度が変わるなんて想定外。


「ああ、うちに来れる?」

「は?」

素で、即座に言ってしまった。だって、家なんて行ったことないし、それってデートみたいなもの…だよね。たぶんそうだよね。お家デートというやつですよね。
なんだか嬉しい。あれ、でももしかして家でなにか言われるとか?でも秀はそんな陰険な性格じゃないだろうし。でも、でも…あれ?言い返さないのも秀らしくないし…
こんがらがる思考を纏めようとしていると、秀がすこしにやりと口を緩めて言った。

「俺もうるさいだけじゃないんだよね」

「…そうみたいだね」

今の態度からして、この人はただ単純な人ではないみたいだ。少し…いや、一癖も二癖もあるかもしれない。それについては、お家デートの時にわかるのだろう。

「今まで黙ってたけど」

「この二重人格を?」

「…そこまで大層なものじゃないと思うけど、」

十分大層なものだと思うけど。そこはまあつっこまないで話を聞く。
「その。…こういう俺でも……その」

「…好きでいるのか、と?」

「うん!まあそんなかんじ!」

黙ってたことは、ちょっといただけないよね。だってあくまでも恋人なわけだし。隠し事はあまりよくないと思う。でも、人間隠したいこともあるわけで…という正論もあるけど、やっぱりちょっと裏切られた感じはある。私だってそんなに出来た人間じゃないし、ついそう思っちゃう。でもそれはただ黙ってたことについてであって、この静かな秀が好きか嫌いかじゃないよね、うん。
静かなのは、私が求めているものなのかもしれないけど正直言って、秀らしくないなぁと思ってしまうし、ちょっと苦手だな。でも秀が嫌いなわけじゃなくって、えーとうまく言えないけど。

「秀は嫌いじゃないです」

「うん」

「でも、静かな秀は苦手です」

「えー…」

「でも、秀のことは好きなので、これからもよろしくお願いします」

「うん!」

サイレントボーイ


100111
お題:にやり様

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