「好きだ」と言うと、みょうじは目を見開く。それから「わ、私も、好きだよ?」。

「それは友達として、だろ?」
「!」

 びく、と肩が揺れる。俺と目を合わせないよう俯いてしまった。顔がよく見えない。顔が赤くないことは分かる。
 せっかく勇気を出して一世一代の告白をしたというのに、こんな反応をされるなんて残念だ。なんて言ったら、みょうじはどんな反応をするのだろうか。

「黙られるのも、クるものがあるんだけど」

 俯いていてはっきりとは分からないが、きっと今みょうじの顔は真っ青だ。「友達だと思ってた霧野くんに告白されてしまった」、「どうやって断ろう」。そんなところかな。
 彼女の好きな奴は知ってる。俺と話す時より、神童と話す時の方が嬉しそうだし、神童の一挙一動に顔を赤くしてみたりするのは見ていた。好きだからこそ、余計にみょうじの気持ちに気付くのは早かった。

「きき霧野くん、私、あのね」
「まさか好きな奴がいるとか?」
「えっ!」
「誰だよ。…教えてくれ」
「あ、え、ち、違うよ」

 目が泳いでる。分かりやすい、すごく分かりやすい。

「好きな奴がいないんだったらさ、」

 ここからが正念場かもしれない。

「俺と、付き合わないか」

 何度か口に出して練習したことはある。昨晩は脳内シュミレートで死ぬほど繰り返した。噛んだり声が上擦ったり、っていう失敗を恐れていたものの、そんなことはなかったように思う。しっかり息を吸い込んで、それなりに落ち着いた声色になったはず、だ。
 みょうじの肩がまた少し揺れる。

「ちょっと付き合ってみて、駄目だと思ったら振ってくれて構わないからさ」

 俯いていた顔が上がった。頷くのかと少し期待したが、首は動かず、聞こえたのは「ふ、振る…」という呟きだった。

「なにか間違ってるか?」

 頭を振った。色々と思うところがあるのだろう。

「答えは急かさないよ。ゆっくり考えてほしい」
「…あの、霧野くん」
「なに?」
「もし付き合って、私がふ、振るとして…ね。ちゃんとまた仲良く出来る、かな」

 それは俺が今上手いことを言えば、付き合えるということだろうか。
 悪いことをしている自覚はある。好きな奴がいると知りながら告白して、逃げ道を無くすような話をしてる、っていう。

「さあ」
「………」
「難しいんじゃないか」

 …泣きそうな顔で見つめられた。不覚にも、胸がどきどきした。加虐心をくすぐられるってこんな感じなんだろうか。

「じゃあ、返事待ってるからな」
「ま、待って!」

 俺、にやけるな、にやけるな。

「つつつ付き合う、付き合うよ。わたし、霧野くんと付き合う!」

 俺に伝えるためだけじゃない。自分に言い聞かせるように、みょうじは繰り返す。付き合う、付き合う、付き合う。俺も嬉しくて一緒に繰り返したくなる。

「ずっと、ずっと付き合う。いい、よね?」
「…当然、いいに決まってる」

 申し訳ないくらいに上手くいってしまった。教室に戻ったら、まっ先に神童に報告しよう。「みょうじと付き合うことになった」って、みょうじと一緒に。きっと笑って「上手くいってよかった」と言うはずだ。そうしたら、みょうじはどんな顔をするのだろうか。…だからにやけるなってば、俺。


110618

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