グラウンドの側の、階段に座っている。ベンチに行くまでもない。監視だけが目的だ。
 背後から足音が近付き、俺の後ろで止まった。

 「なんかね、私ね、」と背後の奴は話を勝手に始めた。なんだよ知らねえよ。俺は任務してんだよ。無視してグラウンドを見つめる。
 「聞いてない?聞いてないなら、言いやすいかも」聞いてるっつーの。でもムカつくから無視続行だ。
 「私、その、剣城くん」呼ぶな。
 「剣城くんのこと考えるとね」お、キーパーが必殺技出したな。潰れる可能性が高い部でよく頑張るもんだ。
 「む、胸が苦しいの」病院行ってこい。
 「…おかしいよね。なんでだろ。友達に相談したら、本人に言いなさいって言うから…」お前に自我はないのか。あいつがああ言ったからこうする、どいつがどう言ったからああする、馬鹿か。
 「って、聞いてないんだっけ」…聞いてる。

 「あはは…」

 「私、馬鹿だからわかんないや」そうだろうな。お前は馬鹿だ。昨日の授業でも馬鹿なことを話していた。
 「剣城くん、剣城くん」
 「明日もここに来る?」
 「……私も来て、いいかな」


 振り向くと、奴が立っていた。びっくりしたように肩を揺らし、「つっ、つつつつつる!」と、意味の分からない言語を叫んだ。日本語を話せ。

「邪魔するな」
「ご、ごめんね」
「話すならさっさと話せ」
「そう、だね」
「後ろから声をかけるな」
「…はい」

 目に見えて、奴のテンションが下がるのが分かった。
 変な奴だ。それに、馬鹿だ。

「隣にスペースがあるのが見えないのか」
「……えっ」
「座れよ」

 奴の顔が赤くなる。

「つつつつつ、つる、剣城くん!」
「うるせえ」
「ごごごめん…」

 嬉しそうに俯き、妙なスペースを空けて奴は隣に腰掛けた。

「………」
「…えっと、明日も来ていいかな」
「好きにしろよ」
「えへへ」

 間抜けな顔で笑うな。暇だろうから任務のついでに構ってやるだけだからな。


110608

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