「神童くん、私たちね、」女の子は焦ったように言い訳する。いい気味だ。

…あれ?姉はこんなこと言わない。だって姉はいつも優しくて、間違ったことが嫌いだったし、こんな陰湿なこと、思わない。やっぱり私は駄目だ。全然。

「なまえ、来い」

拓人くんが静かに言った。教室に声が響く。
姉ならどうする?
ね、お姉ちゃん。お姉ちゃんなら一歩、足を踏み出すの?それとも、彼女達を下手に庇ってまた罵られる?私は今、すごく、たっくんのところに行きたい。でももし、お姉ちゃんが今足を動かさないなら、私も動かさないよ。

「……わたし、わたし。まだ、お話終わってない、もん」

足がすくんだ。私はよく分からない。涙がこぼれる。姉はみんなに好かれるはずなのに、なんで私は嫌われるの?おかしいよ。
さっきまで私が俯くだけで笑っていた女の子たちは笑わない。私が漏らす嗚咽が教室に響いて、すごくすごく滑稽だと思った。
どかどかと拓人くんは足音を立てて私に向かってきて、手首を掴んだかと思うと「こういうの、やめろよ」と言った。涙でぐにゃぐにゃの視界では、彼が誰を見ているのかよく分からなかった。もし私が自惚れていいなら、きっと女の子たちに向けられた言葉だ。

「話なんか無いだろ?いいから来い!」
「う、うん」

拓人くんの手が妙に暖かい。強引に引っ張られてふらふらしながら、彼の後をついていく。姉なら、姉なら、こんなことにならないのに。




「いじめられてるなら言えよ」
「…いじめられてない」
「俺でも霧野でも。…幼なじみだろ、一応」

一応。拓人くんは私の目を見ようとしない。
「…じゃあ俺、練習あるから」ぼそりとそう言って、拓人くんはグラウンドに行ってしまった。

私って馬鹿だなあ。拓人くんに迷惑かけちゃった。お姉ちゃんならこんな風にならないし、もし拓人くんに助けられたら、笑顔で「ありがとう」って言えたはずだ。私はとことん出来の悪い妹らしい。今更過ぎるけど、再確認。
多少ましになっていた涙がまた、じわじわ出てきた。たまに通る生徒が私を変な目で見ているのが分かる。




翌朝学校に行くと、女の子は私を避けるようになっていた。露骨すぎて笑える。あはは。みんなに好かれる姉になれない妹はどうしたらいいんだろう。


110623

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