霧野くんってすっごくかわいい。めちゃくちゃかわいい。きゅーんってなるくらいかわいい。

 ミーティングルームで霧野くんが座る席っていうのは大体決まってる。誰より早く着替えて、霧野くんの隣の席を確保するのが私の日課になりつつある。
 霧野くんが遅くまで自主練してるときは敢えて遅くまで付き合う。ただ、これだと怪しまれるから誰が練習してても付き合うけどね。でも、見たいテレビがある時だけはさっさと帰る。番組によっては霧野くんに勝ったりもする。ごめんね。

 今日も早めに席を確保しようとミーティングルームに入ると、もう霧野くんがいる。いつも通りの定位置だ。ちょっとどぎまぎしながら、「今日は早いね」と声をかける。

「みょうじさんこそ。いつも早いよね」
「今日は霧野くんに負けちゃったけどね」

 にこりと笑う霧野くん。かわいい。すっごくかわいい。

「いつもみょうじさんってここの席に座るよね」
「え、…そうかな」
「ははは、無意識?」

 無意識どころか意識しまくってるんだ、でも意識してるなんて言えっこない。原因は霧野くんだもの。
 それにしても可憐だなあ、霧野くん。

「みょうじさんがここに座るからつい俺も隣に座っちゃうんだよなあ」
「き、きき霧野くん?」
「今日もここに座るの?」

 これはなんなの?霧野くんによるイヤミなの?俺の隣座んなハゲってことなの?それとも、なにかこう、学生らしい甘酸っぱいなにかなの?

「じゃ、じゃああっちの席に座ろうかな…」
「どこ?」
「あの、どこかな。あのへん、とか」

 がたんと霧野くんは私と同時に立ち上がる。何故立ち上がるし。
 とりあえず、あのへんと言ったあたりの席に着く。霧野くんはその隣の席に着く。えっ、これは、あれか。甘酸っぱい方か。

「今日からここが定位置だね」
「いや、私は別に、いつも決めてるわけじゃないよ?」
「そうなの?どっちにしろ、俺が隣に行くから関係ないんだけど」

 …霧野くんの顔がまともに見れない。

「みょうじさん顔真っ赤。かわいい」

 顔が赤いのを隠したくて両手で霧野くんの視線を遮ろうとしたら、手首を掴まれてしまった。どうしろと。
 視界の隅に押しやった霧野くんがやけにいい笑顔をしてる。こんな時でもかわいいなんて、なんだか悔しい。

「かわいくない、です。霧野くんの方がかわいいし」
「そんなことないよ。俺男だし。みょうじさんかわいいかわいいすっごいかわいい」
「きき霧野くんの方が!かわいいもん」

 ぎゅうううと今度は抱きしめられた。霧野くんのにおいがする。うわ、え、ちょっと待って、抱きしめられてる。

「かわいいなあ、まったく!」



 バターンと大きな扉の開く音。その直後に「ミーティングを始めるぞ!」とキャプテンの声。…ああ、やっと解放された。
 キャプテンに続いてミーティングルームに入る選手たちの顔がどことなく赤い。さらに言えば、私と目を合わせようとしない。自分の顔が蒼くなるというのが、生まれて初めて分かった。

「…よし、全員揃ってるな」

 視線を落としつつ、キャプテンの話を聞く。霧野くんも、キャプテンの話はきちんと聞くみたいで大人しい。
 いつも通りのミーティング。一先ずメモを取っていく。話も一段落したところでキャプテンは咳ばらいし、

「今日改めて、キャプテンとしてしっかりしようと思えた。霧野もそう思うだろ」

 し、しぬ。いや、しにそう。もうだめだ。キャプテンの真面目さというか、遠回しなイヤミが逆に胸に突き刺さった。


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かわいいかわいい、

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