井浦君は、家と学校とでまったく違う態度をとる人だ。
ある時、井浦君の家に行ったことがあった。学校で騒がしい井浦君ではなく、大人しい井浦君がそこにいた。

お宅訪問に関する攻防戦


また井浦君の家を訪ねる機会がやってきた。
前回は玄関先までしか入らなかったが、今回は井浦君の部屋まで入ることになりそうだ。

井浦君のことを知りたい、けど怖い。

私はうるさい井浦君が好きだ、友達として。
でも、この前井浦君の家を訪ねた時に見た、あの、井浦君の表情や態度になにか惹かれている。


「あのさ、」

「うん、なに?」

「行っても迷惑じゃない?」

「もっちろん!」

元気よくそう答えた井浦君。

どうしよう、行こうかな。
でも勉強会するだけだし、図書館とかでもいいような…

「図書館とかじゃ、ダメ?」

「んー…ダメ」

妥協はなし、と。
頑なに井浦君宅を勧める井浦君。
なにか策略でもあるのだろうか。

「どうしても?」

「どうしても。」

「…じゃあ、井浦君の家で」

あんまり粘って、嫌な奴と思われたくないし。ここはあっさり折れておく。
でも緊張するなあ、井浦君の部屋…かぁ。

「ていうか、俺の家そんなに嫌だった?」

「えっ、そんなことないよ!」

「じゃあどうしてあんなに粘ったのかなー」

ニヤニヤしながら私に問い掛ける井浦君。なにこのS。

「なんていうか、あの…うーん」

「どうしたのかなー」

これって本音を言うべき?いやだめだ。本音を言ったら負けだ。

相変わらずニヤニヤしてるSうらにうまい嘘をつこうと考えるも、なかなか思い付かない。

「なまえって、今嘘つこうとしてるでしょ?」

「なぜばれた!…じゃなくって!」

うわぁぁぁ私の正直者ぉぉぉ!

この分じゃ、下手に嘘ついても見抜かれそうだ。
本音を言ったら負けだって思ったばっかりだけど、大人しく本音を言おう。

「この前、井浦君の家行ったでしょ?」

「ああ、うん」

「その時に井浦君が、なんていうか、」

「うんうん、」

やけに嬉しそうな笑顔を見せながら相槌をうつ井浦君。
私は顔に熱が集まるのを感じながら、ゆっくりと話す。

「いつもと違って…えーと、」

うまく纏まらない。
いや、纏めようと思ったら「いつもと違う井浦君にドキドキしました」でおしまいなんだけど、なかなかそんなこと口にできない。

「…そのへんは、察して!」

「ちょ、ええええ!」

もう限界!と逃げ出す私。
こんな羞恥プレイ、私には堪えられない!
廊下に出て、走る。よし逃げ出せた!と思うと後ろに誰かの足音。
振り向けば、案の定、

「井浦くん!?…ぎゃっ」

「待って、」

色気のない悲鳴をあげて、私は捕まった。
ほんの10mほどの、鬼ごっこだった。

「好きなように察するけど、」

「…うん」

「俺のこと好きになったってことでいい?」

井浦君も恥ずかしいのか、少し頬が赤かった。

「好きになった」と具体的に言われてしまって、「少し違うよ」と否定しようかと思った。
でも、この胸のうるささから言って井浦君の言ったことは正しいみたいだ、
だから、大人しく頷いてみることにした。


091219

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