※捏造
※暴力表現


きらきらした紫色のきれいな石が私たちに配られた。みんなにはそれを首からかけるよう先生に言われた。私もそのきれいな石に魅了されて、わくわくしながら首にかけた。力が沸いて来て、「ねえすごいねヒロトくん!」とヒロトに声をかけると、「すごいねっなまえちゃん!」と言いながら顔面を殴られた。きっと普段なら「な、なにするの…?」なんて言って泣いてしまうほど痛かった、鼻血も出たし。血が出るのは大嫌いだった、他人の血でも見るだけで怖くて泣くほど。それなのに、顔面を思い切り殴られて自分の血が出たっていうのに、声をあげて笑ってしまった。ヒロトも笑っていた。周りを見回してみると、みんな笑いながら人を殴って蹴って踏ん付けて、とにかく暴力を振るっていた。みんなこのきれいな石のおかげで力が有り余っているんだろう。相手がどれだけ血を出しても自分の血がどれだけ流れても、ひたすら暴力を振るっていた。
先生を見ると恍惚とした表情で、私もああして暴力を振るえばいいのかと近くで笑っていたヒロトに殴り掛かった。でもそれは恍惚としていたはずの先生の声によって止められてしまった。

「みなさん、これからサッカーをしましょう」

その時したサッカーは今までしたどんな遊びより楽しかった。石のおかげでたくさん走っても疲れないし、風をきるような速さで走ることが出来た。ボールを蹴る力だって強くなっていて、キーパーをしていた男の子のお腹にボールを食い込ませるのが楽しかった。食い込むたび血を吐く男の子はそれでも笑っていて、私たちはそれを見てもっと笑った。先生はそうやって友達を痛め付けるサッカーをする私たちを咎めようとはせず、たまに「それじゃあファールを取られちゃうわ」と言って審判をちょろまかして上手く怪我を負わせる方法を丁寧に教えてくれた。
私たちはそうやって数日間、サッカーを続けた。数日経ったある日、私たちは集められてランク別けをされた。サッカーが丸っきり出来ない負け犬と、少しはサッカーが出来る半端な奴と、サッカーの出来る勝ち組。私は勝ち組に入って、ヒロトも勝ち組に入った。
勝ち組に入ったと分かった時、私は負け犬どもを見下した。ちょっと前までは一緒に遊んでいた負け犬は、私を悔しそうに羨ましそうに睨んだ。私はそれが心底嬉しくて、ヒロトにも教えてあげた。「あいつらの目、見てみなよ」ヒロトは私を睨んでいた奴らを見て、「笑っちゃうね。自分らの無能さを僕らのせいにしようとしてるんだよ」と笑った。
そして私たち勝ち組は石を取り上げられた。負け犬どもは石をつけたまま。弱い奴は補助がなければなにも出来ない。私たちは補助がなくとも補助がある奴を負かした。負け犬は鈍くて弱くて、ヒロトはそいつらを負かすたびに「貧弱すぎるね」と嘲笑った。私もそれがおかしくて笑った。負け犬は私たちを憎らしげに睨みながら、媚を売った。それが嫌で嫌で、私は先生に教わった通り、ファールぎりぎりでやつらを痛め付けて、動かなくしてやった。ヒロトはそれを楽しそうに眺めて、動かなくなる奴を見ては私を褒めた。




ヒロトは日本代表になるらしい。代表選考試合で活躍して、代表に選ばれたんだそうだ。私はその電話をうけて、雷門中まで走った。ヒロトの応援がしたかったのだ。
雷門中の門を恐る恐るくぐり抜けてみる。ヒロトはどこにいるんだろう。元雷門イレブンなら私の顔分かるだろうか。誰かに声をかければいいのかな。でもグラウンドには誰もいない。朝早いし、まだ練習が始まってないのかもしれない。と思ったその時、ヒロトの声がした。振り返るとヒロトと、雷門イレブンと、多分日本代表の選手、の面々がいた。きっとこれから練習を始めるのだろう。

「ヒロト、久しぶり!」
「久しぶり…昨日話したけどね。電話で」
「会ったのは久しぶりでしょ?」
「何日か前までは一緒にいたじゃないか」

ヒロトの腕を引っ張り、少し選手たちとは離れたところに来た。私を見てひそひそ言う声が鬱陶しかったからだ。私は数日でもヒロトと離れたのが淋しかったのに、ヒロトはそうでもないらしい。少しかなしい。

「ところでどうしたの?」
「応援かな。はい、お土産」
「ありがとう。嬉しいよ」

ヒロトは笑って私のお土産を受けとった。ヒロトが前に読んでた漫画の続きを来る途中買ってきてよかった。「続き、気になってたんだ」とヒロトはにこにこしながら言ってくれた。

「練習、見学してもいいかな」
「どうだろう。いいんじゃな…」
「いくらでも見ていってくれ!」

大きな声がヒロトの声を打ち消した。大きな声の主は、私たちと戦った時と変わらないオレンジ色のバンダナを巻いていた。ヒロトに「変わってないんだね」と小さな声で言うと、嬉しそうに頷いた。私とヒロトのやり取りを気にする様子もなく、円堂守くんは「お前、エイリアにいたなまえだよな!」と私を指差して言った。

「ヒロト、円堂くんもそう言ってくれてるしいいよね?」
「うん。俺が頑張ってるところ、よく見ていってね」

ばきっと音がして、なにかと思ったら私の顔面にヒロトの拳があった。随分昔のことを思い出した。私は笑っていた。ヒロトも笑っていた。みんなも笑っていた。狂っていたあの場所を思い出した。
私は突然の衝撃に対応出来ず、後ろに倒れた。ヒロトの笑顔がよく見える。円堂くんがびっくりして目を見開いて「ヒロト!」って怒鳴ったのが聞こえる。選手やマネージャーさんが近くに来たのが見えた。私はゆっくり起き上がってヒロトの顔を見た。

「なまえ、すごいね」
「うんヒロト、すごいね」


100809
すごいね

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