「大丈夫だから」と言われても、さびしくなる事実は変わりません。
フィディオくんに告白されて、私も告白?をして、付き合い始めて、私はフィディオくんが好きになったように思います。彼に告白されて初めて意識して、好きで好きで仕方なくなってしまいました。
この数日、フィディオくんがライオコット島に行くための準備をしている間、私はわがままですが少しだけ、彼がライオコット島に行かなければいいのにと思いました。もちろんすぐに、ライオコット島は、FFIは彼の夢だし彼の未来に繋がる大切な大切なことだと思い直しましたが、それでも私は心の隅っこで、彼がイタリアにいる時間が少しでも長引けばいいのにと思いました。

「すごいね、飛行機」
「専用機…そうだな、俺たちのためのなんて、いかにも世界って感じする」
「ふふ、そうだね!…世界かあ」

フィディオくんたちオルフェウスはきっと優勝するでしょう。もし優勝しなくても素晴らしい功績を残すはずです。そうしたらフィディオくんにはその世界から声がかかり、いずれその世界で活躍するでしょう。私はきっとこのまま、ずっとここにいます。
イタリア代表のための専用機を見つめながら、私はそう思いました。置いていかれないかなあ、置いていかれるのかなあ、と。
なにかを察したのかフィディオくんは「大丈夫」と私の目をしっかり見つめてそう言いました。なにが大丈夫なのか、フィディオくんがなにを感じ取ったのか分かりませんでしたが、私は安心して涙をぼろぼろ流しました。

「なっ、なんで泣いてるの?大丈夫か?ハンカチ、ほら…!」
「…ごめん、ううっ」

フィディオくんが出発する時だっていうのに、なんてことをしているのでしょうか。申し訳ないけれど、涙はなぜか止まりません。
唐突にフィディオくんは私をぎゅっと抱きしめました。きつい、けど、嬉しい。「これで泣き止む?」とフィディオくんの声が耳元で聞こえて、今はこんなに近い、とまた安心して余計に涙が出ました。
遠くにいきそうで怖いけれど、今はこんなに近い。今フィディオくんに1番近いのは私で、きっとフィディオくんの中での1番は私で、フィディオくんの頭の中は今、急に泣き出した私をなんとか泣き止ませることでいっぱいになってるに違いありません。ここまで考えて、私にはこんなに独占欲があったのかと驚きました。汚いけれど、私の中のなにかは今満たされていて、ハンカチで必死に私の涙を拭うフィディオくんには悪いけれど、私はすごく幸せです。

「フィディオくん、もう出発みたいだけど」
「…なまえが泣き止まなくちゃ行けない」
「もう大丈夫だよ」
「そんなことない」
「大丈夫だってば」
「………」

服の袖で涙を拭って、笑顔を作る。その笑顔のまま「いってらっしゃい!」と言うと、フィディオくんはため息を一つ吐いてから「応援よろしく」と言って仲間の元に走っていきました。
よろしくされなくても応援しています。私はずっと前から、フィディオくんが活躍するのを応援していました。きらきらした瞳でサッカーの試合を見るフィディオくんを私は見ていました。ライオコット島に行って帰ってこないわけじゃありません。フィディオくんはきっと、世界一のチームの一員になって帰ってきてくれるのでしょう。


100713
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