フィディオくんはすっごいサッカー選手です。まだ中学生とはいえ、とにかくすごいのです。彼と私は幼なじみで、今では彼が多忙のため中々会えませんが、なんやかんやで彼と私はとても仲良しなのです。
FFI、と呼ばれる世界大会があります。その大会に彼は出場したいと言っていました。イタリアで白い流星なんて呼ばれる彼の志は高く、「世界には俺よりもっと強いやつがいる」とフィディオくんは言います。私はそうして遠いところを見るフィディオくんの瞳が大好きです。


「久しぶり」
「フィディオくん!」

学校帰り、ぼんやり歩いていると肩を叩かれ、誰かと振り向けばフィディオくんがいました。「久しぶり」という彼の言葉の通り、私とフィディオくんが会うのは半年ぶりくらいでしょうか。メールをすることは度々ありましたが、フィディオくん本人と会うのは久しく、ついつい嬉しくて、涙がほんのすこし出ました。というか、涙腺が緩むというか、目が潤むというか。フィディオくんはそれを見て、くすくす笑います。なんだか恥ずかしいなあ、一人感極まって、と思ってすぐに目を擦り涙を拭い取りました。

「相変わらずなまえは泣き虫だなあ」
「半年ぶりなんだもん」
「それにしてもさ…」

呆れたようにフィディオくんは言って、私の肩に手を置きました。そして、「今日は伝えたいことがあって来たんだ」と言いました。
伝えたいこと、と改まって言われると、もしかして悪い知らせなのではと思ってしまいます。だって今、フィディオくんはFFIに向けて代表選手たちと厳しい練習をしているはずだし、私のところまでくる隙なんか本当はないはずなんです。まあ、私にそこまでして伝えたいことがあるなんて、少し嬉しくもありますが。私が特別みたいに思えますし。
私がフィディオくんに話すよう促しても、中々彼は話そうとしません。やっぱり悪い知らせなのでしょうか。

「勿体振らず話してほしいな」
「……うん」
「私はほら、どんなことも受け止めてみせるから!」
「…………、本当に?」
「うん。嘘はつかないよ!」

きちんと、フィディオくんの蒼くてきれいな目を見て言い切ります。するとどうやら話す決意が固まったらしく、フィディオくんは自らに対して深く頷きました。大丈夫、と言い聞かせるように。
ここまで深く、フィディオくんを悩ませる話とはなんでしょうか。ほんの数秒後、遅くても数分後には分かることとはいえ色々考えてしまいます。聞くのが怖い、それが本音です。でも「受け止める」と言ったからには受け止めて、彼を少しでも楽にさせてあげたい。幼なじみとして、彼の親友として、一番と言えなくても彼を理解している人間として、そう思うのです。

「俺は!」
「うん!」
「なまえのことが!」
「私のことが!」
「好きだ!」
「好き!……あれ?」

耳まで真っ赤なフィディオくん、私はそれを見て、頭の中がこんがらがります。
「好き」というのは、私も同じ気持ちです。彼にそれを伝えるのは、気恥ずかしさもあるでしょうが、難無くこなせます。今この時も「フィディオくんのこと好きだよ」くらい言えます。しかし、今フィディオくんが言った「好き」は、「改めて」「伝えたいこと」ということで、さらに彼が真っ赤になっているということを考慮すると、これは恋愛感情での「好き」なのではないかという結論が出ます。

「あの、俺はずっとなまえのこと見てて、」
「…うん」
「ずっと好きで、」
「…はい」
「本当はずっと黙ってようと思ってたんだ」
「ええと、うん」
「でも今度、FFIがあるだろ」
「ああ、うん」
「その前に、伝えたくなって」

フィディオくんはちらちら私の目を見ながら、まるで言い訳するみたいに言いました。私はといえば状況が飲み込めなくて、適当な相槌をうつのが精一杯。
だってフィディオくんは幼なじみで親友ですごいサッカー選手で、ある意味憧れではあったけれど、好きとかそういうことを考えたことはありませんでした。でも「受け止める」と言ったからには真剣に考えなくてはいけません。いいえ、「受け止める」と言わなくても、真剣に考えるべきことです。
「好き」と言われて「好き」と返したら、お付き合いをするのでしょう。お付き合いといったら、手を繋いだり抱き合ったりキスをしたり、それをフィディオくんと。恋なんてしたことがない私はよく分かりません。付き合うということは、べたべたすることというイメージしかなくて。こういう場合、身近なカップルを思い浮かべるのがいいのでしょうか。そういえばママが昔、「恋は楽しくて辛いもの」とかなんとか言っていたような気がします。「楽しい」は分かりますが「辛い」が分かりません。フィディオくんといるのは楽しいし嬉しいし、とてもいい気持ちだけれど、辛いなんて思ったことは………うーん、離れている時辛いと思うのはカウントされるのでしょうか。

「フィディオくんは私のことが好き、なんだよね」
「…うん、まあ、そうなるかな」
「フィディオくんは、私と離れてる時辛い?」
「そりゃあもう!」

「身近な」人には目の前の彼も含まれるわけで。フィディオくんは私のことが好きな人で、その彼が私と似たような感情を持っているということは、私も彼に恋してるということでいいんじゃないでしょうか。数学の問題みたいな証明の仕方だけれど、恋を知らないのだから仕方ない、ということにさせてください。

「私もフィディオくんのこと好き、かもしれない」
「えっなまえが?」
「悪い?」
「悪くない、最高だよなまえ!」

彼の言葉を聞いていると視界が急に暗くなって、なにかと思えば彼の胸の中に引っ張りこまれていたらしく、突然の出来事とフィディオくんに抱かれているということにびっくりしたのか心臓がどくどく言っています。


100711

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