ひとつ上の学年に、とても可愛い先輩がいる。桃色のカーディガンを身に纏い、いつも髪はツインテール。さらさらの黒髪を揺らして歩く姿はまさしく音ノ木坂のアイドルといったところか。その先輩のツイッターを覗き見るところ、先輩本人も可愛いことは自覚しているらしく、大量の自撮り写メと共に、「あなたに、らぶにこっ」なんていまどき電波アイドルでも言わないような言葉が綴られていた。それでも、その自撮り写メを保存させてしまうのは、先輩の愛らしさゆえだと思う。
 インターネットのSNSサイトはなんだか怖くて、興味も無くて、登録したことは無かったのだけれど、先輩のために登録してしまった。登録してフォローすれば先輩のツイッターが、より見やすくなり、先輩にメッセージを送ることも出来ると聞いたのだ。まさかわたしなんぞが先輩にメッセージを送って、やりとりしようなんて考えたこともないけれど、でもでも、いつの日か、そんなときがくるかもしれないから。
 友達の協力を得てなんとか登録を済ませ、先輩をフォロー。先輩の上目遣いな自撮り写メがわたしのタイムラインに並ぶ。可愛い、これは、いいツールだ。可愛さに震えていると、ぴこんと携帯が音を立てた。リプライの通知…?リプライとは、と思いつつ見てみると、先輩のアイコンが
「フォローありがとう!応援よろしくね。あなたのにこにーより」
なんて言っている。大慌てで友達に確認すると、リプライとは先輩からわたし個人に送られたメッセージのことなのだという。先輩がわたしにメッセージ、もとい、リプライを!大問題である。かと思えば、また通知。今度は、先輩がわたしをフォローしたそうだ。
 もう、死んでもいい。
 などと言ってはいられない。あの、あこがれの矢澤先輩からリプライが来たのだ。お返事をしないといけない。なんて返そう。いつもお世話になってます?先輩はわたしの顔も知らないのに。可愛いですね?事実だけど、ほぼ初対面で言っていいことなの?気持ち悪くない?でも伝えたい。延々考えた挙句、簡潔なものになった。
「いつも先輩にあこがれてます。陰ながらですが、ずっと応援してます!」
 少し重いけど、わたしの素直な気持ちだ。こんな言葉、きっと先輩なら何度も掛けられているんだろうけど、でも。伝えたかったのだ。
 この学校に入学を決めたのは、先輩がいたから。見学にきた高校で、ひときわ可愛い女の子がくりくりの大きな瞳で校舎を眺めているのを見て、この高校に入ろうと思った。きらきらした瞳に映る世界に、わたしも入ってみたかった。
「ありがとー!学校の子カナ?嬉しいな〜。今度おはなししたいね!」
 どきどきどきどき。こんなの社交辞令だってわかってる。それだって、嬉しい。先輩が携帯の画面越しに、わたしとお話してる。それで、今度お話したいって。とんでもないことだ。とんでもない。


 そんなやりとりがあったのが懐かしい。あるとき、先輩のツイッターには「アイドルを目指すことになったよ」と書かれていた。相変わらずの可愛らしい先輩の自撮り写メが添付されていた。先輩がアイドルになるのは必然とも言える。アイドルみたいに可愛いのだから、きっと、世界でいちばん可愛くてきらきらしていて、最高のアイドルになると思う。
 先輩にリプライを送った。

「先輩のこと、応援してます!」


140605
ずっとあなたのファンでいたい

- ナノ -