働き者のきみに、


まず、オレの知っているミノリの一日の過ごし方はこうだ。

朝起きたらまず作物の水遣りをして、それから動物たちのご飯。ブラッシングも済ませて窮屈だろう小屋から大きな体を押して出してやる。誰もいなくなった小屋の掃除を済ませたら漸く朝昼兼用のご飯を食べ、午後は畑を整備したり水田の様子を見に行ったりと忙しなく動き、漸く全ての仕事が一段落する頃には陽はすっかり沈んでいるらしい。それからオレの店でご飯を食べて、また夜の水遣りがあるからと話も早々に帰って行く。

一体彼女はいつ休んでいるのだろう。レストランのように定休日でもあればいいのだろうけど、彼女の愛する職場に生憎そんなものは無い。
前に一度、疲れていないか、少しは休みも必要なんじゃないかと聞いた時に、牧場主なんてみんなこんなものだと明るく笑っていた彼女は本当に逞しいと思ったものだ。

だからこそ、

今こうして目の前でカウンターテーブルに頬を付けて熟睡している彼女を、起こす気になんてなれなかった。
なるべく音を立てないように洗い物を終えて濡れた手を拭いてから、隣に座ってその幸せそうな表情を眺める。
無防備すぎだろ、とも思うがそれが向けられている相手は今ここにいる自分だけなわけで、そこまで気を許してくれている事実がなんとなく嬉しくも思う。
テーブルに一房垂れる横髪をそっと耳に掛けてやると前髪から覗く眉がぴくりと動いた。起こしたか?……いや、大丈夫だ。
ほどなくまた先程と同じようにすーすーと寝息を立てる彼女。立ち上がって、カウンター下に仕舞ってあるブランケットを取り出し肩に掛けてやる。
あと少しだけ、このまま寝かせてやろう。幸い客ももう残っていないし、閉店間際のこの時間に駆け込んで来る奴も目の前の彼女以外にはそういないだろうから。

「あんまり無理するなよ」
「……大丈、夫」
「え?」

しまった。本当に起こしちまったか。
慌てて髪を掬っていた手をエプロンのポケットに引っ込めた。

「さっき…水あげ、たから…」
「……、…寝言ですか」

随分大きい寝言だな。
思わず誰も見ていないのをいいことに声を抑えて笑ってしまう。


そういえば戸棚に今朝焼いた飾り用のクッキーがあったっけ。毎日忙しなく動き回ってる奴だ、ちょっとした時に摘めるようなもんがあった方が良いだろう。…持ち帰り用に詰めてやるか。


そっと腰を上げてカウンターの向こうに回る。ほんの少しだけ、後ろでミノリが動いたような気がした。


(2014/03/14)
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