多分、1ヶ月程前のおは朝占い。
なまえの星座が最下位だった。思えばあの日から、なまえは災難続きだった。
その日のなまえのラッキーアイテムは飲料水だった。
朝、高尾に近くの自販機に寄るように言って、自販機の飲料水を買って登校した。


「おーおー、わざわざ彼女ちゃんのラッキーアイテム買ってくのね。朝からお熱いことで」
「彼女じゃないのだよ」
「は? 真ちゃん達まだ付き合ってなかったワケ? 傍から見りゃカップルにしか見えねーって」
「……そうか」
「ブッ、嬉しそうにしてんじゃねえよ!! こっちが恥ずかしいっつの」


高尾あの時の笑い声なら、まだ覚えている。
その日はなまえに飲料水を手渡すと、なまえは「買ってきてくれたの!? ありがとーっ、流石緑間だね」と、笑った。

なまえのその日の災難は、部活中にボールが顔面に一度当たっただけで済まされた。
「一回当たってるんだけど……」と本人は膨れていたが、ラッキーアイテムがなかったら、もっと災難に合っていた筈。


次の日も、なまえの星座は最下位だった。
二日連続なんて、滅多にないことだ。ただならぬことが起こってしまうのではないか。
その日のなまえのラッキーアイテムは熊のぬいぐるみだった。
特別に俺のを貸してやるのだよ、と言うと、彼女は喜んだ。


その次の日。また、なまえは最下位だった。
三連続なんてあるものなのだろうか。
ラッキーアイテムは豚の貯金箱だった。だが、俺は持っていない。
学校でなまえに聞くと、なまえ自身も持っておらず、登校中に2度も水たまりですべって転んだらしい。そのせいで彼女はジャージ姿だった。


「帰りに買って帰るのだよ」
「やっぱ、そうした方がいいかなあ? 正直帰りならほとんど一日終わってる気がするけど」
「そんなことを言うのであれば帰宅してすぐに明日の朝まで寝るのだよ。お前の明日提出の課題がどうなろうが知らんがな」
「あーもー、そんなこと言わないでよ、買いに行くから!!」


その手の雑貨が売られている店を俺は知っていた。
部活が終わった帰り、俺はなまえと共にその店へと足を運んだ。
なまえはかなりはしゃいでおり、不必要なまでに走って笑っていた。暢気なやつだ。


結局その日、豚の貯金箱を買う事はできなかった。
そのせいで、なまえは体調を崩した。
辛うじて学校に来てはいたが、一日中机に突っ伏したままだった。
課題も提出出来ていなかったようだった。その日のラッキーアイテムのピンクのイヤホンを、傍らにそっと置いてやった。
その日も、なまえは最下位であった。一日中何も喋れないほど、最悪な一日であった。


また翌日。今度は俺が風邪をひいた。
その日は土曜だったために学校は休まずに済んだが、部活は休んだ。
俺の蟹座は土曜は11位と低調であった。明日の占いも10位だった。
ラッキーアイテムはしっかり常備した。
それでも気になったのはなまえのことだ。
なまえはその土日も最下位だった。
ラッキーアイテムは、土曜は狸の信楽焼、日曜は熊のぬいぐるみ。
両方過去に俺が使ったものだった。渡しに行きたいが風邪をひいている為に外出が出来ず、困っていた。
だが、朝のうちに高尾が見舞いに来てくれた。俺は高尾に、なまえの家に届けるように頼んだ。


「……真ちゃん、これ」
「なまえのラッキーアイテムだ。昨日の様子と占いを見る限り、あいつはまだ完治していないだろう。届けにいってやってほしい」
「いや、どうせなまえちゃんの家行く気だったけど……真ちゃん」
「早く行くのだよ。治りが遅くなっては可哀想だ」
「真ちゃん」


高尾は何か言いたげで、哀しげな表情をしていた。何があったのかはわからない。
俺の風邪は翌日の日曜まで響いたが、月曜には完治した。
月曜の占いは6位。ラッキーアイテムは白のリストバンド。
なまえはまた最下位だ。ラッキーアイテムは黄色の花束。
通学路の途中にある花屋で、花束を購入した。
気遣ってか、高尾も買っていた。

教室に入ると、他のクラスメイトも占いを見たのか、なまえの机の上には花であふれていた。
黄色のものに限らず、色とりどりの花が机の上を埋め尽くしていた。
その花とは裏腹に、なまえは顔色を悪くして俯いていた。虚ろな目で花の山を見つめていた。


「……俺が持ってくるまでもなかったようだな。今日のお前のラッキーアイテム、黄色の花束なのだよ」
「……ありがと。緑間も土日風邪ひいてたんでしょ? それなのに土日分もわざわざ用意してくれて……申し訳ないね」
「らしくないのだよ。あれは過去に使ったものであったから問題ない。早く調子を戻せ」


なまえはまた、喋らなくなった。これほどに深刻なのに、学校を休まないで大丈夫なのだろうか。
無理をするものではない、と言おうとしたのを、高尾が遮った。


「真ちゃん、席つこ? もうすぐHR始まるし」
「……そうだな。」
「1位だっけ? 皮肉なもんだよな。今更かよって」
「……? 何を言っているのだよ、見る番組を間違えたのではないか」


同じ位の時間帯の裏番組のニュースでも、似たような占いをやっている。
そっちはあまり当たらないので宛にしていないが、多分高尾はそれを見たのだろう。
ならばその占いは大外れだ。こんなになまえが不運に陥っているのに、1位なんてとれるはずがない。最下位以外に、こんな不運はありえない。
なまえは、今日も、その次の日も、最下位だった。
俺は毎日ラッキーアイテムを用意し、なまえの机に置いてやった。
あれ以来、なまえは一向に喋らない。ずっと俯いたままで、顔色も悪くなる一方だ。
見るに堪えないなまえの姿を見かね、何度も帰らせようとしたが、なまえは毎日学校に来た。


そのような最下位続きの生活が、もう1ヶ月も続いている。
なまえの机は1ヶ月分の俺が用意したラッキーアイテムで溢れている。
それでもなまえは一向に元気にならない。


「今日は、赤い靴下なのだよ。古い物ですまないが、無いよりもましだろう」
「真ちゃん……」
「あと、過去のラッキーアイテムは早く片付けた方がいいのだよ。また同じものがラッキーアイテムになることもあるかもしれないから、お前が持って帰るといい。俺にはまだ余裕が」
「真ちゃん!!」


高尾は1ヶ月間ずっと、哀しそうな顔で俺に何かを訴えかけてくる。
何だ、と問えば、言葉を濁して俯いてしまう。
一体高尾が何を言いたいのか、俺にはわからない。
明日の占いこそ、なまえは1位になれるだろうか。


なまえは、何座だっただろうか。



20121223
受け入れられない話

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