好きな人が居ます。どうしようもないぐらい、大好きな人が。
気が付くと頭は彼でいっぱいで、彼を前にすると顔がどんどん熱くなる。
優しい笑顔も、力強い腕も、大きな手も、全部私を惑わすのだ。


「なまえの事、前からずっと、好きだった」


だから彼からの思わぬその一言は、私の全身を熱くするのに十分すぎて。
心が溢れるほど満たされて、ああ、幸せだなぁ、なんて柄にもなく思ったりした。


現に私は幸せだ。


誠凛高校に入学して、少ない中学時代からの友人ともクラスが別れてしまった中で、その彼、木吉鉄平と同じクラスになった。
その鉄平が、クジ引きで決まった席順が隣同士だったことから、私は彼に恋をしたのだ。
始めは恥ずかしくて、照れて、毎日心臓の音がうるさかった。
今こそ前ほど緊張はしないものの、やっぱり鉄平に抱き締められたりキスしたりはやっぱり私の鼓動を倍速させる。
彼と一緒に居たくて、もっと居たくて、二人の時間が大切で。
だから、鉄平と一緒に居られない時間は辛くて、でも耐えて待ってた。


「なまえー、部活終わった」
「あ、お疲れ様ー! 帰ろっか。」


いつも皆帰宅した後の教室で一人、鉄平を待つことも私とっては苦じゃない。
だって、鉄平は来てくれる。我慢して待ってれば絶対に。
だから、辛くなかった筈だった。

バスケの大会も始まって、部活の練習時間も増えて、鉄平と一緒に居られる時間は限られていった。
やがて帰りも遅くなり、鉄平は「先に帰ってて」なんて言うようにもなった。
朝も朝練があるからって一緒に登校はできない。
どんどん距離が開いていくようで寂しかった。でも、まだ大丈夫だって、思えた。

大会が始まって、試合の応援に行くようになった。
バスケ部の人達とも鉄平を通して仲良くなってたし、リコちゃんとも仲良しだったから、特別にマネージャーという名目でベンチのとこから見させてもらえることになって、間近で試合を見る事ができた。
鉄平がダンクで点入れたりするところは本当かっこよくて、応援も、しすぎて声が枯れた。
好きな人が好きなことで上手くいっているのは、本当に嬉しくて。

確かにそこには、私が入り込めない空間があったけど。でも、やっぱり鉄平が好きだったから、近くで見ていられることが、幸せだったから……。


複雑な気持ちが入り組む中、あれは何回戦目だったか。
霧崎第一高校との試合が始まった。
鉄平が懸命に走る姿を見つめながら、今までと同じように応援する。
誠凛が優勢になっていき、これなら勝てるかなぁ、なんて甘い考えが生じる。
……霧崎第一の選手交代があるまでは。


選手交代で入って来た選手は、鉄平と同じく無冠の五将と呼ばれている花宮真だった。
途中までは普通だった。誠凛の勝ちだって、信じてた。
鉄平が走る。鉄平が跳ぶ。全部かっこよくて、やっぱり私は鉄平が好きなんだなぁって、実感してしまう。
スナップ音が聞こえたのは、その時だった。








あの合図の音は、間違いなく花宮によって発せられた音だった。
その合図に従った霧崎第一選手により、鉄平は膝を故障した。
チームの皆に最初は見栄をはって捻挫なんて嘘ついたけど、順平には結局話していた。
リコちゃんもたまたま居合わせて、その話を聞くことになる。

鉄平の膝の故障は、長期入院を必要とするものだった。


「はは、ごめんな、情けねえとこ見せちまって」
「…そんなことないよ。鉄平かっこよかった。この怪我だって、相手が悪いんだよ」


涙で少し赤くなった目。なんとなく、見たくなかった。
あたしは立ち上がり、上半身をベッドに任せるようにして精一杯鉄平を抱きしめた。
鉄平は応じてくれて、優しく抱きしめ返してくれた。


「……毎日お見舞い来るね。困った事あったらあたしに言ってね。鉄平、一人じゃないから」


子供を宥めるような口調になってしまったが、鉄平はちゃんと受け止めてくれて、さっき泣いたばかりなのにまた泣いた。
ありがとう、ごめんなって、涙交じりに呟いてた。

謝らないでいいのに。

鉄平が辛い想いをしているのを見るのは辛かった。
それは、本当。でも、何故だろう。



今までより一緒に居られることに安心している。あたしは最低だろうか。


20121108

無駄に長くなってだれた

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