寒さも徐々に抜けはじめ、花粉が飛び始めた今日この頃。
花粉症対策のマスクをしつつ、母に命ぜられた夕飯の買い出しをしに、最寄りのショッピングセンターに一人いた。
スーパーでも良かったが、丁度自分も買いたいものがあったのである。
人の賑わう店内を、食材の入った袋を抱えて帰ろうとしていたところ、見覚えある人物を見つけた。


(あれ、むっくん……?)


遠くから見てもすぐわかる、あの周りから突き抜けるように大きい彼は、見間違うはずもなく紫原敦君だった。
今日は部活休みだったのかな。
よく一緒に居る氷室先輩の姿は見えず、一人できていることが伺える。
むっくんは一人、何かを選ぼうとしてるようだった。
なにしてるんだろう、と思って近づいていく。

むっくんが居たのは、ホワイトデーコーナーだった。
ホワイトデーは数日後に控えている、バレンタインのお返しイベント。
私は女友達数人と、雅子ちゃんと、むっくんに渡していた。

もしかして、そのお返しをいま買おうとしてくれてるのかな。
じゃあ私、この場に居合わせるべきじゃなかったんじゃ……
そう思いつつも、私は既にむっくんの1m前ぐらいまで近づいていた。
むっくんは私に気付くことなく、棚に並ぶお菓子を眺めている。
いくつかを手にとって見比べて、サンプルとかも眺めてかなり悩んでいるようだった。


「**ちん、飴とクッキーどっちが好きだろ……あー、マシュマロもあるしー……**ちんあんま俺の前でお菓子食べないからわかんないしー……」


やっぱ、私へのプレゼントのようだ。
かなり試行錯誤してくれているみたいだ。なんだか嬉しい。
むっくんは数個手に持って考え込んでいると、そのうちの一つを落としてしまった。
むっくんは慌てて横に落ちたお菓子の箱を拾う。


「わ、いっけねー……あれ? **ちん?」


拾う時に体を横に向けたので、後ろにいる私に気がついた。
なんとなく気まずくなりつつ、おはよ、と言うとむっくんの顔はみるみるうちに赤くなった。


「……いつから居たの」
「ついさっきだよ。むっくんみつけて来たんだけど、話しかけずらくて」
「それでずっと見てたのかよ……全然気づかなかったし」


そういうと、むっくんははっとして手に持っていた箱を後ろ手に隠す。
……場所が場所だから、正直意味ないけど。


「……見た?」
「あはは…見ちゃった」
「〜〜〜っ!!」
「見ちゃ、まずかったかな。」
「当たり前だしー……室ちんに、渡すまで秘密にした方が喜ぶって言われたから……」


罰が悪そうに目線を下にそらす。
顔はさっきより赤くなってる。いたずらが見つかった子供みたい。


「見なかったことにするよ?」
「……ほんと?」
「ほんとほんと。」
「……クッキーとマシュマロと飴、どれが好き?」
「キャンディかなぁ」
「……わかった」


そういうと、むっくんは持っていた箱の中からピンク色の箱だけを持ってレジに向かっていく。
むっくんは数分で戻ってきた。キャンディは自分の鞄に入れたみたいで、買い物袋は見当たらない。


「……荷物、重そう。手伝うし」
「ありがとー。」

むっくんはあたしが抱えていた大きい方の袋を持ってくれて、私の家まで一緒に歩いた。
むっくんはさっきよりはマシなものの、顔は少し赤い。
なんだか可愛くて、クスリと笑ってしまった。

「……何がおかしーのさ」
「んー、別に?」

むっくんは少しむすっとした。
私の家の前まで来て、荷物を受け取った。

「14日、楽しみにしてるね」
「う、うっさいし!!!」


むっくんはまた赤くなって、ばたばた帰って行った。
早く、14日にならないかなあ、なんて思いながら、家に入った。


20130309
ホワイトデーのお返しの意味、
マシュマロはお断り、クッキーは友達のままで、キャンディは好き、らしいです。

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