クッキーはなかなかの出来だった。
焦がすことなくいい色に焼けていて、ほっとした。
他の女の子たちと比べて飾り気がないが、持ち前のタッパーにクッキーを入れた。


「これ、どうやってわけよっかー。」
「んー、てか、すぐ食べたい。」
「じゃぁ、お昼に食べる?」
「うん。一緒に食べよー。」

え。
思わず口から声が出ていた。
え、今、なんて?


「え、えと、え?」
「? だから、一緒に食べよ、お昼」


聞いた瞬間、私は、こう、胸の奥から何かがわき上がるような何か……
そう、何か、何かを、感じていた。


クラスメイトに、お昼ご飯を誘われた……!
入学からずっとぼっち、お昼も人気のない場所でひっそり食べてきた私にとって、それは今まで飢え続けていた言葉。
その言葉を、今目の前の紫原君が、何の気無しに言ったのだ。
感動のあまり、すこしじーんときてしまった。


「えーと……嫌?」
「う、ううんっ! い、一緒に、食べる……」


慌てすぎたあまり、語尾が弱くなってしまった。
そっかー、って紫原君はまた穏やかに笑った。


紫原君によると、彼は屋上の鍵をピンで開けられるらしい。
ものの数秒で。どういうことだ……とつっこみたくもなるが、とにかく人とお昼なんて久しぶりで、かなりテンションがあがってた。ルンルン気分。
屋上へ向かう途中、女の子を振り切った黄瀬君に合流した。
紫原君が「今日**ちんも一緒なんだけどー」と言うと、黄瀬君は「本当ッスか!?」とにっこり笑ってくれた。
いい人だ……なんだかまた感動してしまった。

紫原君は本当に数秒で鍵を開けて、晴れ渡った空の下、他に誰も居ない屋上で三人でお昼。
他愛もないお話しながら、お弁当を食べる。
そんな時間は、私が今まで夢見ていた光景そのもの。
ああ……! どれだけ待ち望んでいたことか!

「じゃー、おやつのクッキー食べよー。」

紫原君はすぐ食べ終わって、私のもとにあったクッキーのタッパーを指でつつく。
私と黄瀬君もすぐ食べ終わって、三人の囲む真ん中にクッキーのタッパーを置いた。

「色、きれーに焼けてるッスねー!」
「うん、割とね。黄瀬君、いろんな子に貰ってたけどだいじょーぶ?」
「平気ッス、やっぱ自分たちで作った方が食べたいッスしね!」

あ、もちろんもらったものも食べるッスよ!と黄瀬君ははにかんだ。
紫原君に視線を向けると、早く食べたそうでむすっとしていた。


「ねー、もう食べていー?」
「うん。食べよっか。」


三人ともタッパーのクッキーに手を伸ばし、手にとったクッキーをかじった。
お、結構美味しい。前に作ったより美味しいかも。


「美味しーッスね! これも**っちのおかげッス」
「大袈裟だよ、たいしたことないって」


褒められると嬉しいなー。
二人とも美味しそうに食べてて、なんだか嬉しくなった。
紫原君も、食べながら満足そうな表情。嬉しい……!


「●●ちんすごいねー。こんな感じでお菓子、普段つくるの?」
「大したことないよ、休みの日に作るくらいだしね。」


私はもう一枚クッキーを手にとって、かじる。
その瞬間、ちょっと思いついてしまった。
……迷惑じゃないだろうか、と少し不安にもなったが、勇気を出して言ってみることにした。


「あの、休みの日に作ったら、持ってこよっか、なんて……」
「いーんスか!?」
「おおー!」


二人とも声をあげて、嬉しそうな反応をしてくれた。
ぼっちだった私とこうやって一緒に居てくれたわけで、それに対するささやかなるお礼にでも、なんて。
なんだか期待値が上昇している気がする。これは特訓ですな。


「じゃぁ、頑張って作ってきます……!」
「やったー、ありがと●●ちんー。」


紫原君はおだやかに笑った。
そこでちょうど昼休み終了のチャイムが鳴った。
こんな風な、楽しい昼休みは久しぶりだった。



20121016

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