[いつもよりはやくおわっちゃったはやくきてはなみやくん]


漢字変換ができてないあたり、慌てて送ってきていることに察しはついた。
……そうでなくても、早く終わってしまったのならあいつ自身が大丈夫なはずがないのだ。
俺もかなり焦った。部活の終了まであと10分もある。まさかこんなに早く終わるなんて、今までこんなことなかったってのに。


俺は古橋にもう切り上げる事を伝えた。なんとなく、名前のことだと察してくれたのだろう。
急いで練習着から着替え、荷物を持って部室からとび出した。
いつも落ち合う駐車場。いつだって俺はあいつが薬を買って戻る前にそこに到着していた。
俺が少し遅れること自体滅多に無いのに、こんなに時間が空いたことなんて初めてだった。


一人きりで、あいつは怯えているだろう。
いつ人が来るのかわからない場所で、一人泣いているだろう。
そう考えるとどんどん走るスピードが速くなる。


(何で俺が、こんなに必死になって……)




角を曲がってすぐに、名前の通う精神科病院がある。
建物の向こう側の駐車場へ向かってダッシュした。

「名前!!」

駐車場の看板の前、名前は待っていた。
腕を震わせながら、はなみやくん、と呟いた。
それはいい。寧ろもっと錯乱しているんじゃないかと心配していたものだから、それを思えば安心した。
問題は、その横に立っている人物だ。


「おーおー、久しぶりやんか花宮。」
「……何でここに居るんだよ」
「いや、偶然やで? この近くに新しい本屋出来たやろ、その帰りにちょうど、な?」


そこに居たのは、俺と名前と同じ中学だった先輩の、今吉翔一であった。
今は桐皇学園のバスケ部の人間だ。中学卒業してからは運良く大会では当たらずに、顔も合わせずに済んでいたというのに。


「……お前も相変わらずみたいやな。いつも家まで送るて、いつからそんな優しい男になったん?」
「うるせーよ。俺にも責任ってのがあるだけだ。アンタには関係ないだろ」
「おーおー、冷たいやっちゃ」


ヘラヘラと貼りつけられたような笑顔で笑う今吉を睨みつけ、名前の腕を掴む。
名前は急に腕を掴まれたからか一瞬震え、俺を見つめる。


「花宮君……」
「……帰るぞ。別に用もないんだろ、先輩」
「せや、通りかかっただけやしな。まぁ元気にやりぃよ」


今吉は背を向け、チラリとこちらを見てニヤリと笑った。
相変わらず、あの妖怪は嫌いだ。あいつにはほとんどを見透かされているんだろう。
悔しいが、あいつにつっかかるとなると少々面倒だ。俺は舌打ちだけして、名前の腕を引っ張り今吉とは逆方向へ歩き出した。




「花宮君」
「…………」
「花宮君」
「……なんだよ」
「怒って、る?」


震えながら歩く名前は、俯いたまま言った。
思わず立ち止る。名前は俺を見上げた。
残された片目が、俺だけを映した。



「……別に何もねぇよ、バァカ。」



20121210

時系列ですが、花宮とヒロインは高校1年生、今吉先輩は2年生です。

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