はなみやまことくんは、いつだって優しかった。
私が付けた傷をいつだって叱ってくれて、心配してくれた。
そんな優しい彼に、私はいつだって甘えていた。
花宮君にいつも迷惑をかけてしまっているのは解ってる。
だから、早くこの悪癖も治さなければならないし、ココロノビョウキも治さなきゃいけない。


だけど。
かれこれ私がこんな状態になってしまってから1年経ってしまっている。
相変わらず人は怖いし、無性に自分を殺したくなる。
痛みに安堵する。赤く流れる血だけ、汚らわしい自分の身体の中で唯一綺麗に思えた。

私は汚い。


片目を潰したのは、見える世界が怖かったから。
ぐらぐらして、目の前が真っ暗になる錯覚にやられて、チカチカしていた。
何が本当で何が幻覚なのか。わけがわからなくて、いっそのこと目なんて見えなくなってしまえばいいと、近くにあったシャーペンを片目に突き刺したのだ。

両目潰してやろうという勢いだったが、片目を潰した激痛に私は狂ったように―もう狂っているが―叫んだ。
それは痛みによる悲鳴なのか、痛みによる快楽の叫びなのかは、よくわからない。
しばらくすると母が来て、黙って救急車を呼んだ。


お陰で片目の視力は失われて、眼帯をするはめになった。
今になっては片目の視力が恋しくてしかたがない。
狭まった視界が、恐怖でしかなかったのだ。


片目のせいで、薬の量は増えた。
でもその量じゃ足りない。いつだって私は、一週間分の薬を四日程で食いつぶしていた。
今週は量が多かったけれど、結局一週間が経たないまま薬が底をついた。
花宮君にその事を伝え、今日も病院があると言うと悪態をつきながら了承してくれた。


花宮君は、優しい。



いつもの通り、遠回りをして人気のない暗い道を歩く。
この道が怖くない訳ではない。もし急に誰かが現れたらなんて、考えただけで動悸がしそうだ。
拳を固く握りしめ、不安に耐えながら病院まで歩いた。

また足りなかったんですか、と医師は呆れていた。
そしてまたいつもの通り、一週間分の薬を処方される。
摂りすぎるのは危険だからやめなさい、と同じような忠告をまたされた。


すぐ隣の薬局でいつも通り薬を買って、駐車場に出た。
いつも待ち合わせる看板の前に立った。
時計を見ると、いつもより早く済ませていたことに気が付いた。
部活が終わってからだし、花宮君がここに来るまでまだまだ時間がある。
長い時間を一人で居るということが恐怖でしかなくて、ガタガタと震えだす。
震える指で花宮君にメールを送って、しゃがみこんだ。
返信はすぐに来た。

[早めに切り上げて行くから、おとなしく待ってろ]

その文字に安心する。ああ、ちゃんと来てくれる。
携帯を握りしめて膝を抱える。早く来てくれないかな、一人は、怖い。
不安にまた辛くなる。怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
覚束ない手で鞄を漁る。担任の机に置いてあったものを勝手に持ち出した、赤いカッターを取り出した。
また花宮君に怒られてしまう。でも、怖い、怖い怖い怖い怖い


今にも腕を切りつけようとしたその時、カッターを持った右手を掴まれた。
さっとカッターを奪われて、遠くへ投げられる。

花宮君はすぐに来るって言ったけど、こんな早くに来られる筈がない。
じゃあ、この人は誰なんだろう。
誰誰怖い怖い怖い誰誰誰誰。
震えが止まらなくて、見上げるのさえ怖くて、俯いた顔が上がらなくて。
そんな私を見かねて、声をかけられた。


「相変わらずみたいやなぁ。名前ちゃん、ワシの事は怖がらんでええよ?」


聞き覚えのある声だった。一個年上の、中学時代の先輩だった。
ゆっくり、ゆっくり顔をあげると、貼りつけられた笑顔をしたその人は、やっぱり知ってる人だった。


「今吉先輩……」


今吉先輩。今は桐皇学園に通ってる、中学時代の先輩だった。


20121122

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