平日の部活帰り。
今日他校との練習試合だった。結果は圧勝。正直相手にもならなかった。
通常、練習試合は土日練習で行うものなのだが、相手校の都合により、今回は平日に行う事になったのだ。――都合を汲んでやる程の相手ではなかったが。

古橋や原達とは別れ、俺は病院に向かっていた。
俺が診察を受けに行くのではなく、名前を迎えに行く為だった。


高校入学以来、俺は毎日欠かさず名前と一緒に下校していた。
登校はバスケ部の朝練の為にできないが、帰りは必ず名前を部活が終わるまで待たせて名前を家まで送り届けた。
……そうでもしないと、危なっかしくてしょうがない。……朝も不安ではあるが、帰り程ではない。


精神科病院の駐車場前まで来ると、ちょうど名前が薬を買ってこちらに来るところだった。


「はなみや、くん。:
「……終わったところか」
「うん。薬、貰って来た」
「……目、何て言われた」
「あ……怒られちゃった。薬、量増えちゃった」


当たり前だバァカ。俺はそう吐き捨てると、名前の隣についた。


「……帰るぞ」
「うん。帰ろっか。」


病院は人気の少ない、静かな場所に立てられている。
学校からこの病院に来るまでの道なら、人気のないところを通って来ることができるので、名前だけでも来ることが可能だった。
だが、ここから家に帰るとなると、人通りの多い大通りをどうしても通らなければならない。
大通りへ出ると、名前は肩を震わせながら俯いて歩く。
よくは見えないが、眼帯をしていない方の瞳はぐらぐら震えている。


名前は俺の制服の裾をぎゅっと掴んで、離さない。
俺以外の人間が、見知らぬ奴なんて特にこいつにとっては脅威だった。
学校だって、入学当初はとてもじゃないが普通とは言い難い有様だった。形容にはばかるを得ない。
クラスメイトや学校の人間の顔を覚えるまで、こいつの怯えようはすさまじかったとだけ、言っておく。


名前の家の前に辿りつき、名前の肩をそっと叩く。
……家に着いた相図である。帰り途はいつも、家につくまで下を向いて歩いているのだ。



「ありがとう、花宮君……ごめんね」
「今更何言ってんだバァカ。慣れたっつーの」


弱弱しく名前はまた明日、と言って家の中へ入っていった。
俺も帰ろうと踵を返そうとした時、窓から名前の母親がこちらを見ているのに気が付いた。
俺に気が付くと名前の母親は「ありがとう」と口ぱくし、軽く会釈をした。
作り笑いで会釈を返し、俺はすぐにその家から離れた。

名前の母親は、既に名前を放置している。
娘があんな状態なのに、病院代や食事を出すだけで、ほとんど口をきいていないようだった。
……こうにも変わり果ててしまった名前に、怯えきっている。実の母子だというのに。



気にくわない話ではある。最初の頃は苛立ちを隠せはしなかったが、今となってはどうでもいい話だ。
実母が守れないというのなら、俺が守ればいい。それほど単純な話。


寧ろ、それによってこいつは俺にしか頼れない。こいつの世界には、俺しか拠り所がないのだ。
それでいい。こいつは俺だけを見ていれば、それでいいのだ。

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