昨日。病院が早く終わって、今吉先輩と偶然会った時のこと。
ここで会ったのも何かの縁だとかなんだで、メールアドレスを交換したのだった。
受信したメールの内容は些細なもので、先輩に気を使わせてしまっている……と、反省した。

今までよりも酷くなってしまった腕を見て、ため息をつく。
遠目で見てもわかってしまう程にガリガリ掻き毟ってしまった腕はかなり痛々しい。
もしかしたら今までで一番酷いんじゃ……花宮君に、また怒られてしまう。
怒られてしまう。怒られてしまう。……あたしは今まで、その程度にしか思っていなくて。
怒られることに、慣れてしまっていたんだ。


今日は、雨だった。
鉛色に侵された空を見るだけで、陰鬱な気分に染まる。
……大分長い間、気分が晴れたことなんて無かったように思えるけれど。
天気のせいで、午前中なのに辺りは暗く、教室の中がやけに明るく感じた。
花宮君が教室に入ってくる。バスケはインドアスポーツだから、雨に限らず朝練はある。
花宮君は中学時代からかなりバスケが得意だったそうで、その名は他校にも知られる程だとか。
それに加えて頭も良くて、本当にすごい人だなぁって思う。
そんな花宮君に、あたしは迷惑をかけっぱなしで。

学級委員の女の子が、朝礼だから移動するように呼び掛ける。
先ほどまで騒いでいたクラスメイトはどんどん教室から出て行った。
朝礼は嫌い。学校中の生徒が集まって、静まりかえって。人が大勢居るのに、静か。
あたしは移動しなかった。というか、入学以来朝礼に出席したことが一度もない。
いつも通り。誰もあたしを注意しないし、移動させようと促してくることもない。


「……おい」
「…え。何」
「お前、腕……」


隠し切れてたつもりだった。
でも思ったよりも傷の範囲は広く、手首から傷が覗いていたのだ。
はっとして、片方の手で傷を隠そうとするも、花宮君の手によって遮られる。
花宮君に腕を掴まれたかと思うと、制服の袖を思いっきり捲られた。
痛々しい傷。赤く滲んだ腕を見て、花宮君は目を見開いた。


「お前、さぁ……本当馬鹿じゃねえの? こんな酷かった事今まであったかよ」
「……ごめ、ん」
「ごめんじゃねぇよ!! こんなにしちまって、薬飲めっていつも言ってんだろ?」
「ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい」

花宮君の怒鳴り声が誰も居ない教室に響く。
いつも以上に、怒ってて、怖くなる。ごめんなさいって、何度も口にした。

「……そうやって毎回毎回謝るけどよ、直せたことあったか? 毎回毎回……直す気なんか本当はねぇんだろ?」
「ち、違っ」

「どうだっていいけどよ、俺はもう知らねえからな。死にたきゃ勝手に死ねよ」


否定し続けていた自分の声が、止まった。
声が、出なかった。


「これ以上お前の面倒見切れるかよ」


花宮君は、あたしを見てくれなかった。
見ようともせずに、教室から出て行った。



(今吉サンにでも慰めてもらえばいいじゃねぇかよ)









今まで何度も、何度も叱ってもらっていた。
でも、いつも一緒に居てくれた。
でも、あたしがいつまでたっても直さないから、いつまでたっても駄目だから。
遂に、見捨てられてしまったんだ。
花宮君が居なくなったらどうなるの?
花宮君が一緒に居てくれない。
そんなあたしって一体なんなんだろう。
孤独にただ過去に縛られて、自分を傷つけて。
生きてる意味ってあるの。
花宮君が居ないあたしってなんなんだろう。




そのあと、どう立ち上がって、どう移動したのか。
何も覚えてない。ただ、覚えてるのは、落ちる寸前の、地面の水たまりだった。



20130210

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