「ったく、なんで俺が……」


7月末。夏休みに入って間もない土曜日の夜。
毎年恒例の花火大会兼夏祭りが開催されていた。
俺からしたら全く興味の無いイベントであったが、クラスメイトの男子にどうしてもと連れ出されてしまった。
しかもあろうことかそいつは、急用ができたとかなんとかほざいて先に帰りやがった。
お陰で俺は今出店の建ち並ぶこの人ごみの中、一人で歩かされている。
人ごみはかなりゆっくり進む。いつまでたってもこの祭りの波から抜け出せずイライラしていた。
ものの数分。やっと人ごみの少ない場所まで流れ着くことができ、ため息をする。
とっとと帰ろうと駐輪場へと向かおうとした時、後ろから声をかけられた。


「花宮君!!」
「……げ」
「げって何よ。やっぱ花宮君だ。偶然!」


声をかけてきたのは、同じクラスの名前だった。
紺に赤い花の描かれた浴衣を着たそいつが、歩きづらそうにしてこちらへ近寄って来た。


「あれ、花宮君一人?」
「ちげーよ。……連れが勝手に先帰っちまって、今帰るとこ」
「やっぱ一人じゃん。実は私もなの。友達が喧嘩してた彼氏にばったり会って、仲直りしたと思ったら一緒に回るって」


勝手な話だよねー、と頬を膨らませる名前。あー、アホっぽい。


「それで今帰るかどうか迷ってたんだけど、心配無いね」
「え?」
「花宮君、一緒に周ろう!!」


は?と間の抜けた声をあげてしまった俺なんか無視して、名前は俺の腕を掴んでぐいぐい人ごみへ入り込もうとする。
ちょっと待てって、という俺の主張も虚しく、俺はまた祭りの波に入り込むことになったのだ。



最初に来たのは林檎飴屋。買って帰るんだとか言って、大きな飴を一つ買ってた。
名前はそんだけでにこにこ笑う。いつまでガキっぽいんだか。
二人とも来て間もなかったために空腹で、俺はタコ焼き、名前は焼きそばを買って食べた。
たこやきを一つ勝手に食われた。どんだけ食うんだよ。
次に射的屋。両手でかかえる程のくまのぬいぐるみがあった。
名前が欲しくなって挑戦しだした。が、小銭が減っていくだけだった。


「うう。難しいねこれ……」
「そりゃ、簡単にできちゃ商売になんねぇだろ。あとお前が下手クソなんだよ」
「な、なにそれーっ!! 花宮君ならできるの!?」
「うるせーな、やってやるよバァカ!」

……勢いで言ってしまった。
店主のおっさんに300円を払い、俺は銃を手に取った。
使える玉は5発。俺はぬいぐるみに標準を定め、一気にその5発を叩きこんだ。
ぬいぐるみはゆらりと揺れて、後ろへゆっくり倒れていった。


「おぉ、お兄さんやるねぇ。はい、これ一番難易度高いと思ってたんだけどねぇ」


おっさんにぬいぐるみを手渡される。でけぇな、それにしても……。
横に居る名前といえば、呆然としてぬいぐるみを見つめている。


「な、できるっつたろ」
「まじかよ……」
「フハッ、俺が出来るっつったらできんだよ。……ホラ」


手に持ったぬいぐるみを名前に押しつけた。
驚いたようにして少しよろめきつつ、名前はそれを受け取った。


「……いいの!?」
「ったりめーだろ、俺がクマのぬいぐるみなんか要るわけねーだろ」
「……! あ、あありがと。」


名前は少し顔を赤くして、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて俯いた。
うっ、とこちらも赤面する。そんな反応されたらこっちも照れるだろーが……
そっからは無言が続きつつ、夜道を歩く。
花火大会の時間が近づき、人は花火の見えやすい方へと集まりつつあった。
公園の近くが見えやすいらしく、人の流れに連れられて俺達も公園の方へ向かっていた。


「……花宮君てさ。いっつも性格悪くてひねくれてるけどさ」
「うるせーな。」
「あはは。口も悪いし、意地悪だし、最悪だけど」
「……喧嘩売ってんのかよ」


クスクス笑う名前に、少し腹が立つ。
やっと喋り出したかと思えば、悪態ばっかり付きやがって。
そう思っていると、名前は少し頬を染めつつ、口を開いた。


「違うよー。そんだけ最悪なゲス野郎だけど、時々優しいよねって話。」
「ッッ!! ……な、なんなんだよお前急に。頭おかしいんじゃねーの」
「べ、別に? ただなんとなく思っただけだよ。……照れてる?」
「う、うるせっ!! ……公園ついたし、ちょっとトイレ行ってくる!!」
「はいはい。じゃ、ここで待ってるねー。」


喋っている間に公園に付いていた。
敷地内に人だかりができており、トイレもほどほどに混んでいた。
名前はぬいぐるみを抱えたまま、少しだけ離れた人の少ないところでフェンスにもたれかかって待っていた。
俺はトイレに行くと言いつつ、公園の中の水飲み場ですぐ顔を洗った。
顔が火照って、熱くてしょうがなかったからだ。



顔の火照りが気になって、名前と少しでも別れてしまった。
それが最大の間違いであった。あの時俺は、そんなの耐えて自然と火照りがひくのを待てばよかったのだ。
プライドを守ろうとしてその場を離れてしまったのが、俺の今までの人生の中での最大の失態であった。



20121223
花宮のキャラが迷走しだした

prev next

 



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -