episode00-01


episode00.『僕と森の長い一日01』

おばあちゃんの家から徒歩二分、あまり大きくはない森がある。
村の人はみんなその森を「白樺の森」と呼んでいた。
周りの友達は怖い怖いと口を揃えて言っていたが、小さい頃からおばあちゃんの友達がいるから、僕はよく森に行っていた。
「おばあちゃーん、森行ってくるけど何かみんなに渡すもんある?」
「翔ちゃん、また森に行くのかい?一人で?」
「ああ、うん。」
「お友達とは行かないのかい?」
「だってみんな行きたくないって言うんだもん。」
「そうかい、じゃあこの大福をみんなにあげなさい。」
「わあ…!おばあちゃんの手作り?」
「ああ。ちゃんと翔ちゃんの分もあるよ。」
「本当に!?やったあ!じゃあ行ってくるね!」

美味しい大福を持って小走りで森へ向かう。
途中、石に躓いてこけそうになったけど、なんとか持ちこたえる。
「おーい、みんなぁ、おばあちゃんの大福持ってきたよー!」
大声で叫ぶ。
すると木陰やら川やらからみんなが出てきた。
「あ、翔だあ。」
すぐに僕の足元に来た小さな少女は大福をくれ、と急かしてきた。
「全く、木霊は食いしん坊だなあ。ちゃんと全員分あるよ。」
はい、と木霊に大福を渡す。
「あらら、坊ちゃんじゃん。何?大福?俺にも頂戴。」
次に食い付いたのは氷流だった。
海に出掛けてたのか、まだ手に少し鱗が残っていた。
「海行ってたの?」
「あ、うん。ちょっとねー。この大福美味しい。」
もくもくと大福を頬張りながら氷流は鱗を人肌に戻していった。
「翔ぉ!私にも頂戴!」
「峯姉さんの大福頂戴!」
そっくりな顔の影と光が他のみんなを引き連れて白樺の木の陰から出てきた。
「はいはい、みんな一個ずつあるから、な?」
みんなに一つ一つ配っていく。
あれ?二つ余ってる…
一つは僕の分、もう一つは…?
「紅ちゃんは?」
「んぅ?紅?紅なら確か神社にいるよ。」
「僕行ってくる。」
「ああ、一人じゃ危ないよ、坊ちゃん。」
「じゃあ氷流付いて来てよ。」
「はいはい。じゃ、みんなはここでいてね。」
「はあい」


森の奥に入っていく。
あまりこの森に慣れてない人は絶対しちゃいけないけど、僕は別だ。
ほぼこの森を把握している。
「紅ちゃーん、紅ちゃーん。」
彼女の名前を呼び続けていると、ここだ、と手を振る紅ちゃんを見つけた。
「滝無、どうしたんだ?」
「ん、おばあちゃんから。」
「お、大福じゃないか。峯ちゃんの手作りか?」
「うん。紅ちゃん、こんな所で何してるの?」
「え、ああ。人……?を探しているんだ。」
「人?」
「今日は来てないのか…。」
「あれ?今日いるんじゃなかったっけ?」
「そのはずなんだが…。」
「僕も探すよ!」
「え、でも…。」
「坊ちゃん、危ないよ?」
「探す!」
「……仕方ない。」
「峯さんに叱られるよ…。」
「構うものか。こうなったら滝無は聞かないからな。」
「やったあ!」
「じゃあ、ちょっと私に掴まってなさい。絶対に離しちゃ駄目だぞ。」
「?うん。」
「氷流も来い。」
「はいはい。」
僕は紅ちゃんに掴まって、紅ちゃんは氷流の腕を掴んでいた。
「じゃあ行くよ?坊ちゃん大丈夫?」
「うん。」

すると、氷流は神社のお賽銭箱に五円玉くらいの大きさのメダルを入れた。
そして僕らは光に包まれた。

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