05-後編


X.『花と祭と妖怪と―後編―』

「お客来ないじゃないか。」
「耐えろ。」
店番を交代して二十分。
お客は全く来る気配は無い。
「お前、貧乏神なんじゃないのか?」
「失礼な。私はどちらかというと座敷童の類だよ。」
この現実を目の当たりにして、それを堂々と言えるお前の自信を尊敬する。
「ん?そういや、氷流は?」
あの杜和と同じくらいわかりやすい長身の男の姿が見当たらない。
一体何処へ…?
「氷流ならその辺をぶらついてると言ってたぞ。」
またあいつは…と溜め息混じりに呟くと、何を思ったのか西海道はけらけらと笑った。
「君は小さな時分から氷流に振り回されてばかりだねえ。」
「うるせー!半分お前のせいだろ!!」
実は昔、俺は氷流のせいで大変な目にあった。
まあ今思えばいい経験だったと思うのだが、二度と体験はしたくない。
まあそれはまた別の話だ。
それよりも、だ。
「客来ねえ。」
「外がなんだか騒がしいが、それが原因か?」
外?
そう言われて近くの窓まで行き、見下ろす。
するとそこにはまあ…俗に言う“不良”がたまっていた。
「うわっ、不良が玄関にたまってるじゃん…道理で客が寄らないはずだな…。」
「追っ払ったらどうだい?」
「そんな簡単に言うなよ!」
客が来ない理由はわかった。
では外が騒がしいのは?
「ああ、君、よく見たまえよ。」
急に西海道が改まった言い方をしたので不良の方を見ると、茶色がかった黒髪の女の子が不良に絡まれていた。
その周りにいる野次がきゃあきゃあ言っている。
「って…あれ笹倉じゃんか!あいつ何してんの!?馬鹿なの!?」
「ほう、馨は君と違って勇敢だから不良とやらを追っ払ってるんだよ、きっと。」
「やばいじゃん!胸倉掴まれてるじゃん!!」
「君が助けに行けばいい話だろ。」
「無理だろ。」
「本気出せば、」
「氷流に連絡しろ。あいつ携帯持ってたろ。しかもスマホ。」
西海道はいつ買ったのだろうか、スマートフォンをポケットから取り出し、電話帳から氷流の番号を見つけると電話をかけた。
そして携帯を俺に渡した。
「氷流、校舎の玄関にいる子助けろ、今すぐに。」
『えぇー、坊ちゃん行きなよぉ』
「へぇ、そうかい、あんたがそんな態度とるんならこっちだって考えはあるんだぞ。」
『ふうん、して、考えとは?』
「八年前の…」
そこまで言うと氷流は気付いたのか、うわああわかったよ、と喚いて電話を切った。
「過去の過ちを掘り返すなんて、君もなかなか鬼畜だな…。」
「あいつが悪いから仕方ない。」
「ふふ、まあいい。では氷流の美しいショーを上から眺めさせて戴こうではないか、なあ、君。」
いつの間にか西海道はいつもの姿に戻っていた。
秋だからか、彼女の頭から生える角のような枝にはススキがかかっていた。

ちょっとすると、氷流はたったった、と不良の方へ駆けてきた。
不良はなんだ、と言わんばかりに睨みつけているように見えた。
すると氷流は徐に手をあげてパチン、と指を鳴らした。
突然不良たちの足元はぬかりはじめ、彼らは次々に転んでいった。
泥だらけになった不良たちは氷流を怯え、当の本人は涼しい顔で一言、何か言うと不良たちはどこかへ行ってしまった。
「はぁ、解決したか…。」
「後で何を言ったのか聞いておこう。いやあ、もっと派手にしてもよかったのだがな。」
「馬鹿、目立った行動はするな、させるな。」
西海道は不満げに口を尖らせると脚を組んで椅子に座った。
「主よ、貴方以外の指示を誰が聞こうものか。」
「またそれか。俺はあそこに入るつもりもないし、お前らの為にもなれない。」
「貴方にその意志が無いのなら私は何も言わない。だがな、貴方を待っている者は沢山いる。」
「婆ちゃんが倒れたら考えてやらんこともない。」
「事が起きてからでは遅い。氷流だって、きっとその話をしに来たのでは?」
「うるせえな、とにかく、それは今度大阪に帰ったときに婆ちゃんに相談するつもりだから。」
「そう、ならいい。」
一通りの話が終わると西海道は人間の姿に戻った。
「ま、精々よく考えて決めたらいいさ。君の人生だ。ほら、もう祭は終わったようだよ。」
いつの間にか切れていたスピーカーの電源を入れると、祭の終わりを告げるアナウンスが流れていた。
「私は先に帰るよ。君も遅くならないようにね。」
そう言うと西海道はドアを静かに開けた。
「…翔。」
「なんだよ、早く帰れよ。」
「非常に拙い。」
「は?」
ドアの方に目をやると、―――――――


驚いた表情の杜和が立っていた。
「杜和っ…!」
「…ねえ、翔、紅ちゃん、今のどういうこと?」


拙い、今の話を聞かれ、西海道の姿を見られてしまった。

「どうしようか?」
「神様助けてくれ…!」

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