05-前編


X.『花と祭と妖怪と―前編―』

「祭だああああああ!!」
「西海道うるさい。」
いよいよ宵王祭当日。
西海道の薔薇が見つかったときはひやひやしたが、西海道にはあの後こっぴどく叱っておいた。
「翔、俺店番だから、紅ちゃんと先に回ってて。」
「あ、おう。」
杜和は学校の店番のようなので、俺は西海道と先に町の出店を回ることにした。

「お、おい!翔!りんごあめだぞ!りんごあめなんて五十年ぶりに見たぞ!!」
「ああ、はいはい。」
西海道は子供のようにはしゃぎながらりんごあめの屋台を眺めていた。
りんごあめを食べたいのだろうか。
ん?でも西海道ってお金持ってないよな?
まさか…
「翔、あれ食べたい。」
「お前は子供か。」
むしろお前は婆さんだろ。
「でも食べたい。」
「自分で買え。」
「私お金持ってない。」
「じゃあ諦めろ。」
そう言い放つと西海道はがっくり肩を落として落ち込んだ。
「りんごあめって何円かな?」
すると俺の後方から背の高い、顔見知りの声が聞こえた。
「うおっ…!ってなんであんたここに!?」
「祭があるって峯さんに聞いて、ね。」
「氷流!久し振りじゃないか!!」
背の高い、氷流と呼ばれた男はヘラヘラと笑いながら西海道に五百円を渡した。
「氷流、お前、お金を…!」
「りんごあめ食べたいんでしょ?」
氷流、彼は西海道と同じように俺の実家の近くに住む人魚の一族だった。
白樺宮神社の森の中に川があり、氷流はそこに住んでいた。
彼は人魚と人間の姿を自分の意志で変わることができた。
そのためか、小さい頃から殆ど氷流の人間の姿しか見たことが無かった。
「ありがとう!氷流!」
そう言うと西海道はりんごあめの屋台の方に走っていった。
あいつ中身は本当に子供のままなんじゃないのか。
「で、何しに来たんだ。」
「ん?祭を楽しみに来ただけだよ。」
氷流は爽やかな笑顔のまま言った。
「…ふーん。他の奴らは?全員置いてきたのか?」
氷流は白樺の森では兄貴分のようなものだ。
彼がここに来たのなら他の森に住む奴らがいてもおかしくない。
「みんな連れてきたら坊ちゃん怒るでしょ?」
「……もう子供じゃねぇんだから坊ちゃんはやめろ。」
氷流は小さい頃から俺を「坊ちゃん」と呼ぶ。
原因はうちの祖母がかの有名な夏目漱石の「坊ちゃん」が好きだから、という簡単な理由からだった。
そんな会話をしているといつからいたのか、西海道がりんごあめを頬張りながら俺と氷流を見ていた。
「なんひゃ、ひょうはまひゃほっひゃんとよはれてるのひゃ。」
「喋んな。」
訳すると、『なんだ、翔はまだ坊ちゃんと呼ばれてるのか。』
「まあ坊ちゃんも紅も元気そうで安心したよ。」
「そうだ!氷流、私達の店に来ないか!?」
「はあ!?来なくていいってば!」
「翔、そろそろ店番、交代の時間じゃないか?」
西海道がにたり、と笑う。
くそ…!タイミングの良い奴め…!!


「翔、交代。」
「はいよ、お疲れ様。」
杜和とハイタッチして交代する。
杜和は眠い、と言いながら姉と店を回るために待ち合わせ場所へと向かった。
途中、俺の後ろを歩く氷流をちらりと見て身内?と聞いた。
俺は説明する気もないのでまあ、とだけ言った。
「坊ちゃんも友達がいるんだね。」
「意外だろ?私も最初は吃驚したよ。」
「俺、どんだけ友達いないと思われてんだ…。」
ちょっと、いや結構ショックだ。
「まあ実際、小さいときはいなかったしなぁ…。」
「うっ…。」
「私達にすら仲良くなるのに時間がかかったからなぁ…。」
「う、うるさい!!」
それは仕方ない。
だって小さいときの俺は全然人と喋らなかったし、まず学校も休みがちだった。
だから仕方ないのだ。

「あ、紅、おつりは?」
「………。」
「使ったのか…。」
「いや、落とした。」
「!?」

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