04


W.『森』

「花屋っていうか、造花屋じゃ…。」
「細かいところは気にしないほうがいいよ、早く禿げる。」
「余計なお世話だ馬鹿!」
宵王祭まであと一週間。
造花を売る花屋も、女子の仮装も着々と準備が進んでいる。
「それにしても花ばかりで葉や木が無いな。」
唐突に西海道が言い出した。
「ああ、廊下は森みたいにするらしいけどな。」
「そうなのか!?」
なんでこいつこんなにテンション高いんだ…。
「じゃあ翔の実家の近くの森みたいなのにするのか!?」
「は…?」
俺の家の近くの森?
もしかして…
「白樺宮神社の森?」
「お、多分それだ!」
白樺宮神社。俺の実家の近くにある小さな廃れた神社だ。
その神社は森の中にある。
おそらく、西海道が言っているのはその森、通称「白樺の森」のことだろう。
「翔、そんな田舎に住んでたの…?」
「えっ、ああ、まあな。」
そういえば、実家のことは杜和にもあまり話していなかった。
まあ聞かれなかった、というのもあったのだが…。
「なんだ、杜和は翔の実家に行ったことが無いのか?」
「うん、無い。」
「じゃあ宵王祭が終わったら行こうじゃないか!秋は祝日が多いしな!」
「はあ!?勝手に決めんなよ!」
「いいじゃないか、いいじゃないか!久し振りに峯ちゃんに会いたいし。」
まだ宵王祭すら終わっていないというのに、もう祝日の予定をたてるのか。
「いやあ、白樺の森はいいところだよ…川もあるし…」
「へぇ、楽しそうだねぇ」
「そりゃあもう楽しいに決まってるじゃないか!」
ん?
「私も滝無くんの実家行ってもいい?」
「うわっ、さ、笹倉!?」
西海道の後方からいつの間にか笹倉が顔を出していた。
「笹倉…?翔の友達かい?」
そういえば、西海道は笹倉とは初対面だった。
「あ、西海道さん、初めまして。」
「は、初めまして…」
あまり人と話さないためか、少し緊張している様子だった。
「えっと、私、笹倉馨と言います。一応同じクラスですよ。」
「さ、笹倉か…えっと…私は西海道紅だ。紅と呼んでくれ。」
「え、いいの!?じゃあ、私のことも馨って呼んでね!」
すると西海道は目を輝かせながら、馨だな!と嬉しそうに言った。
こうして西海道と笹倉は友達となった。

そして宵王祭三日前。
「うわああすごい…!」
「まるで本物の森のようだな…!」
漸く学校の出し物が完成した。
葉や花、木などは全て作り物だが、確かに本物の森のようだ。
「…すごい……、あとは女子だけ、だね。」
隣の杜和が花を見つめながら呟いた。
そう、これは単なる花屋、森ではない。
「男子お疲れ様ー!」
扉を勢いよく開けて女子たちが入ってきた。
実はカフェなんだよな、出し物。
「うわ、すご…。」
女子は俺たちが一生懸命作った森を見て予想外だったのか、かなり驚愕している様子だ。
「西海道さんと馨もお疲れ様!」
お菓子を持ってきた女子たちは男子と混じって森を作り上げた西海道と笹倉を褒め称えていた。
西海道はたくさんの人に囲まれる機会が殆ど無いためか、顔が紅潮している。
―――ああ、そうか。
あいつ、ああやってたくさんの“人”と話したりするのってかなり久し振りなんだろうな…。
俺の実家がある村はあまり若い人がいない。
だから西海道も若い、高校生と話すのは何十年、もしかすると何百年ぶりなんだろう。
「翔!」
いつの間にか女子は帰っていた。
西海道は俺のそばまで来て目をキラキラに輝かせながら褒めてくれた、と何度も言った。
「見たか!私の凄さを!」
「ああ、見たってば。」
「あんなに褒められるとは思ってなかったぞ…!馨もお疲れ様だな!」
「うん!紅ちゃんも頑張ったねぇ〜!」
「ああ、ありがとう!翔も杜和もお疲れ様!」
すると西海道は嬉しさのあまり、緊張の糸が切れたのか、薔薇が一輪落ちた。
え、まずくないか?
「あ……。」
「紅ちゃん、薔薇落ちたよ?」
すると笹倉はその薔薇が造花でないことに気付いた。
「これ、造花…じゃない…?」
「こっ、これは!俺が持ってきたんだよ!」
「え?」
考えるより先に体が動いた。
「た、たまたま!たまたま花屋の前通って!一輪くらい本物だったらなぁとか思っただけだから!!」
俺は誤魔化すのに必死で早口になってしまった。
しかし今はそれどころではないのだ。
「あ、ははは…に、西海道、お前、いつの間に俺から奪ったんだよー…あはは……」
ご、誤魔化せた…か?
「そっか、翔のだったんだね、はい。」
すると杜和は笹倉から薔薇を取り、俺に渡した。
な、なんとかなった…。
「じ、じゃあ西海道、帰るぞ!」
「あ、お、おう…!」

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