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V.『闇夜の祭り』

「おお…これは本当に杜和が作ったのかい?」
「流石だな…」
目の前には色鮮やかな弁当がある。
その弁当は杜和が自ら作ったものだ。
「紅ちゃん…食べる…?」
「是非食べさせてくれ!」
今は昼休み、俺達三人―――俺、西海道、杜和の三人は屋上で昼食を食べていた。
西海道が転校してきて間もなく一ヶ月が過ぎようとしていた。
「そういや、西海道は宵王祭に参加するのか?」
「しょうのうさい?なんだい、それは。」
宵王祭。
この地域で行われるハロウィンのようなものだ。
毎年秋分の日に行われ、街の住人は仮装をして豊作や、無病息災などを願う伝統的なお祭りだ。
「へえ、面白そうなお祭りだねぇ。」
「基本的には街の者は全員参加なんだけど…」
「勿論、出るに決まってるじゃないか!」
うわ、こいつもうやる気満々だよ。
「翔は出ないのか?」
黙って弁当を食べていた杜和が首を傾げながら問いかける。
「そりゃあ、出るけど…」
「なんの仮装する?」
「私は魔女がいいぞ!」
カレンが魔女って…
そういや、杜和は西海道がカレンってこと知らないんだったっけ…。
まあカレン自体知らないだろうけど。
「翔は?」
「えっ、俺?うーん…楽なのがいいな…って、別に俺らはジャージでよくね?」
宵王祭で仮装するのは基本的に女子だ。
俺たち男子は他にやることがある。
「なんでだ?せっかくのお祭りなんだぞ?」
「紅ちゃん、宵王祭は学校でお店出すんだよ。」
「そ、俺たちは基本的にその手伝いだよ。」
宵王祭は街をあげてのお祭りだ。
学校も年によって違うが、一昨年からは模擬店を出している。
「へぇ…大変なんだな…。」
「確か…明日から準備が始まる…はず。」
「私も手伝いをしたいんだが。」
「は?」
何故お前が手伝いを?
てか仮装が楽しみなら仮装だけしとけよ…。
「周り男ばっかだぞ?」
「構うものか。男尊女卑の時代は終わった。」
別に男女差別してるわけじゃない。
普通、女子ってそういうの嫌うだろ?
あっ……。

そういやこいつ普通じゃなかったんだった…。
「はぁ…仕方ねえな…。いいか、邪魔だけはするなよ?」
「御意!」
「どこで覚えたんだそんな言葉。」


宵王祭を二週間後に控えた街はすっかり祭り気分だった。
俺たちは放課後、宵王祭の準備に追われていた。
ちなみに今年のうちの学校の出し物は『花屋』。
しかし、すべて造花で、しかも手作りだ。
「何故花屋…。」
「今年のテーマは自然だからね…。」
自然かぁ…。
自然といわれて思い出すのは祖母の家だ。
祖母の家は山に囲まれた静かな村にある。
簡単に言えば田舎だ。
「翔!」
名前を呼ばれて振り返るとそこには西海道がいた。
「はい、薔薇が出来たぞ!」
そう言うと西海道は自慢気な顔で作った薔薇を差し出した。
「お前…本物じゃねぇだろうな…。」
「疑っているのかい?大丈夫、ちゃんと造花だよ。」西海道に手渡された薔薇をよく見てみる。
確かに造花だ。
「おい、お前気をつけろよ。」
小声で話しかけると西海道は小声で
「大丈夫だよ、私がそんなヘマするわけないだろ。」
とだけ答えた。
その自信は一体どこからくるんだ。

西海道がカレンであることはこの学校では俺と本人しか知らない。
もしあいつが人前でいつもの妖怪のような姿に戻ったら…。
大変なことになるだろう。
何が起こるかわからないが、とにかく大変なことが起きるだろう。


「西海道さんって面白いよね。」
次の日、西海道が買い出しに出掛けているときにクラスメートに話し掛けられた。
「えっ、ああ…うん。」
唐突に何を言うかと思えば…。
「滝無くんって西海道さんと仲いいよね?」
「まあ…幼なじみだし……。」
「あっ、そうなの?」
「うん………。」
確かこの子は…。

笹倉 馨さん。

ぼーっとしていて、いつもニコニコしていて、ちょっとドジな女子。
「あ、ごめんね、急に話し掛けちゃって…。」
「あ、いや、いいよ。」
西海道以外の女子とあまり喋らないせいか、どうも女子の前だと挙動不審になってしまう。
「じゃ、準備頑張ろうね!」
「おう……。」
………ん?
あれ?模擬店の準備ってたしか男子の仕事じゃ…。
西海道以外にも準備を手伝う女子っていたのか…。

そんなこんなで宵王祭まであと十四日。

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