01

T.『カレン』


「君は『カレン』を知っているかい?」
「『カレン』?誰かの名前かしら。」
「いや、人の名前では無いんだよ。ある種族の名前だ。」
「種族?」
「ああ。彼らは世界のあらゆる場所に住んでいて正体を隠し、人間として生きている。」
「つまり、知り合いにも『カレン』がいるってこと?嫌だわ。」
「どうして嫌なんだい?」
「だって彼女たちは化け物かもしれないじゃない。」

「おや?」

―――どうして、君は『カレン』のことを『彼女』たちと言ったんだ?

「私は『彼ら』と確かに言ったはずだよ。」
「そうね、それは―――」




「っていう不思議な話があるんだけど、どうかな!」
どうと言われても困る。
「なに?お前ってそんなに人から怖がられたいの?」
「えっ、なんでだい?」
いや、こっちが聞きたい。
「だってそういうのってなんかかっこいいじゃないか!」
中二病か、お前は。

先ほどから全く話が前に進まず、俺のストレスは溜まるばかりである。
そのストレスの原因というのは目の前にいる奇妙な女、西海道 紅である。
彼女は非常に奇妙な格好をしている。
なにより一番目立つのは目だ。
彼女の右側の顔は大半が美しい、小さな薔薇で右目を隠すように覆われている。
それだけで目立つのに、彼女の頭髪は金髪でしかも尾てい骨あたりまである長く、毛先が少しカールしている。
「お前な、自分が絶滅寸前の『カレン』だからって調子に乗りすぎだぞ?」
そう、彼女は『カレン』であった。
「嫌だなぁ、滝無くん。調子になんか乗ってないさ。」
滝無とは俺の苗字である。
滝無 翔が俺の名前だ。
「むしろ君はもっと私を敬うべきだよ、何百年生きてると思ってるんだい?」
またババァの小言か。
ババァと言っても容姿は十八歳くらいの女子高生と何ら変わりはない。
これが本当の永遠の十八歳ってやつか。
「全く、暇だからこうして君の家に来たというのに君は勉強ばかりして…」
「明日は定期テストなんだよ。」
「人間はやれ勉強だの、やれ恋愛だの忙しいのは昔から変わらない気がするね。」
「毎日時間を持て余しているお前よりかは良いと思うぞ…。」

なぜ俺が『カレン』と仲がいいかって?
それは簡単なことだった。


俺が小さい時―――おそらく、六歳くらい―――彼女は現れた。
俺はその時、祖母の家に住んでいた。
そこに住んでいたのが西海道だった。
まあ一種の座敷わらしのようなもので祖母が子供のときからいるそうだ。
彼女は純血のカレンではなかった。
彼女の父は普通の人間だったそうだ。
彼女の家族はうちの祖母の近所に住んでいて、祖母と仲が良かったらしい。
その後、彼女の父が亡くなり、母は不慮の事故で亡くなった。
天涯孤独になった西海道を引き取ったのが一児の母となった祖母だった。

「ていうか、なんでお前まで東京に来たんだよ。」
そう、彼女は俺が高校生になったのと同時に東京に来た。
今はアパートで一人暮らしをしている。
「いや、だって君一人じゃ峯ちゃんも心配するだろうし、君の母親だって心配してるじゃないか。」
峯とはうちの祖母の名前だ。
「っ…まあそうだけどさぁ…」
「うーん、君、明日は学校かい?」
「テストだって言っただろ!人の話聞いとけよ!」
「ああ、そうだったな。すまない、ではまた明日。」
そう言って西海道は去っていった。


翌日。
無事にテスト一日目を乗り越えた俺は終礼中はずっと顔を伏せて睡魔と格闘していた。
「――…で、転校生を紹介する。」
先生のその一言が気になり、少しだけ顔を上げた。
そこには見慣れた奴が立っていた。
「西海道 紅です。よろしく頼む。」
そこには、右目を眼帯で隠した黒髪の、俺の知っている西海道とは少し違うが確かに西海道紅が立っていた。
「!?」
「じゃ、西海道は滝無の隣な。わからんことあったらそいつに聞けよ。」
おいおい!なぜお前がここにいる?てかなんでいつもの金髪と薔薇目じゃないの!?ってなんで俺の隣座るの!?やめて!俺の落ち着く場所減らすのやめてよ!
新手のいじめか?そうなのか!?

「よろしく、滝無。」
「よろしくしたくねぇ。」

こうして俺の不思議な学校生活が幕を開けてしまった。
できれば開いてほしくなかった幕が。


「君の学校って綺麗だね。」
「……おう。」

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