side:ナマエ 『送ってくれてありがとう、ギルベルト!』 「滅相もございません。」 『今度はお土産に美味しい珈琲豆を送るわね!貴方好みの物を見つけてくるわ!』 「奥様の選ばれる物は全て私好みでございます。…お帰りをお待ちしております。どうぞ、ご無事で」 『…ありがとう。大好きよ』 「私も、奥様を、……ナマエお嬢様をいつまでも想っております」 『ふふ!懐かしい呼び方ね!』 「では行こうか」 『えぇ!』 クラウスに手を引かれ車を後にする。私の可愛いランボルギーニちゃんとも、しばしの別れをしてきた。 「この飛行機で間違いないか」 『えぇ、これよ』 まだ時間はある。彼を誘い、近くの喫茶店へと腰を下ろした。 「どうだ、今のライブラは」 『皆相変わらず楽しい人達よね!レオナルドちゃんだって、最高だったわ!』 「…私は君があまり若い者達と戯れる姿を見ると少し焦りを覚えたよ」 『あら!どうして?』 「美しい君が、私より若い男を選ぶのではないか…と…」 俯き、耳を赤くするクラウスに私の心臓はきゅんきゅんと締め付けられる。あぁ、もう!なんていじらしい人! 『もう!クラウスったら!私がどれだけ貴方を愛しているか知っていてそんな意地悪を言うのね!』 「い、いや、私は…」 焦りながら慌ててカップのコーヒーに口を付けるクラウスは、人類の希望だろうが何だろうが、いくつになっても私の可愛いテディベアだわ! 『あの日、貴方に出会い恋をしたあの日から、私は貴方一筋なのよ?ご存知なくて?』 照れたように返事の代わりに私の手を握る彼は、出会ったあの頃と何も変わらない。 間もなく、飛行機の出発時刻になる。エントランスで私達は手を繋いだまま、自然と向かいあった。 「…君がいない日々がまた始まるのだな」 『貴方がいない毎日は全く味気ないわ』 「想像もしない非日常を生きているのに?」 『それは貴方もでしょう!』 「…確かに」 『ふふ!おかしな人ね!』 彼の大きな手を私の頬に持っていけば、クラウスは優しく笑った。 『あなたに、神のご加護がありますように。 世界の全ての幸運が、貴方に降り注ぎますように。』 「それは私にはあまりに傲慢すぎる」 『なら、私の幸運を全て貴方に捧げる』 「それも困る。またここで君と生きて会うためにも、君自身の為に取っておいてほしい」 『あなたは我儘な人よ、クラウス』 彼の手を引き、そのまま首へ腕を回す。 『…寂しいわ』 私を抱え、抱きしめてくれる彼は、ほかの人と変わらない。優しい人の温もりを持っている。 『人類の希望だなんて、嫌よ。人類の為なんかじゃなくて、本当は、私のためだけに生きてほしいの。自分勝手な私を許してね』 小さな子どものように我儘を言って彼を困らせている自分がどうしようもなく情けなくて、彼の肩に顔を埋めると、優しく頭を撫でてくれた。 「そんなに自分を責めないでくれ。 私はこれからも人類の為に全てを捧げる。だが私の心は、ナマエ…君に捧げることを約束しよう。」 『…意地悪な人』 「そんなつもりはないんだ」 知ってる。貴方がどれだけ真っ直ぐな人で、どれだけ優しいか。だから私は貴方を好きになったのよ。 『メールも電話も手紙も書くわ』 「毎日君を想おう」 『きっとよ』 「必ず」 『愛しているわクラウス』 「私もだ。誰よりも君を愛しているよ」 キスなんて安直にしない。絡みつくその視線だけで、彼の愛を感じることが出来るなんて、幸せだと思わない? 飛行機が滑走路を走り、地面から離れていく。窓から小さくなるHLを見つめると、きっと彼も私の乗る飛行機を見つめている。そんな気がした。到着地まで残り20時間。 『…近くにミスター・エイブラムスがいないことを願いましょう』 また、彼にハグ出来るまで残り2568時間。 (end…?) . . . 飛行機が滑走路へ着くと、急に後方で爆発が起きた。エンジントラブルらしい。機内は大騒ぎ。あとは降りるだけだった事もあり、客室乗務員の指示に従って私達はなんとか誰も命を落とさず空港内へと避難出来た。一体どうしてこんなことが…上空を飛んでいる時は何とも無かったのに。ミスターエイブラムスが近くにいなくてもこんなことって起きるのねぇ。 「ややっ!?ナマエじゃないか!?」 『…ミスタ、!?』 「偶然だなぁ!君もここに来ていたのか!!いやぁついさっき、そこで飛行機が爆発してたな!驚いたよ!」 『それって、私が乗ってた飛行機!』 「本当か!!いやぁ!君が無事で何よりだ!!ところで今からどちらへ?」 私は地名を覚えておらず、地図を広げて行きたい場所を指さす。 『ここへ行きたいの。……えっと、ミスターは?』 「…驚いたなぁ。まさに俺も向かうところさ!ナマエと一緒なら道中が楽しくなりそうだ!!アッハッハッハッハッ!!」 クラウス、早速私、非日常が始まりそうよ! end. |