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小さかったシルバもいつの間にかゼノさんの背丈を超え、立派なゾルディック家の跡取りとして大きくなった。

ゾルディック家では代々子どもの結婚相手は親が決めるみたいでゼノさんもそれを悩んだけれど(自分は反対を押し切って私と結婚したのに)、私はシルバには私やゼノさんのように好きな人と幸せになってほしいから敢えてこちらで決めるような事はしなかった。

孫の顔は見てみたいけれど、結婚しなければそれでもいいと思っているシルバの人生だもの。私はそれで構わないと思っていた。
そんな能天気な私とは裏腹に当の本人は家の事もよく考えてくれており、成人を迎えてすぐ、シルバはキキョウさんという綺麗な方と婚姻を結んだ。そして楽しみにしていたことを隠しきれないくらいに嬉しい初孫が出来たのだ。



「可愛い可愛いイルミちゃん、おばあちゃんとも仲良くしてね」



私の人差し指を握る小さな掌は、本当に愛おしくて息子とも違う愛おしい存在に私はもうメロメロだった。



***




イルミちゃんが生まれて早数年が経つ。

シルバの長男として、イルミちゃんに期待していることは確かだった。
だけどゼノさんもシルバも、まだ幼いあの子に毒入りの食事を与えるなんて!早すぎるわ!
なんて私は考えていたけれど、母親のキキョウさんが「いいえお義母様!早いに越したことはありません!」と熱く仰っていたから、私は圧に負けて「その通りね」と言わざるを得なかった。



「イルミちゃんは毒入りのお食事は好き?」



ある春の昼下がり。
いつもイルミちゃんと遊ぶ大きな木の下で今日はピクニックをする。私はついに尋ねてしまった。何を分かりきったことを!聞いたところでこの子は今後の自分の身を守ることに備えてこれからも毒の量を増やしていかなきゃいけないのに!馬鹿も甚だしいわ!それでもまだ幼いイルミちゃんは私に甘えるように膝の上に座ってきた。



「あんまりすきじゃないよ」



あまり子どもらしく感情的にならないこの子から聞いた、珍しく子どもらしい答えに、何だかほっとした。



「そうよね、おばあちゃんもあまり好きではないわ」
「え?おばあさまも?」
「えぇ。ふふ、びっくりした?」



黒くて可愛い丸い目をぱちぱちさせてイルミちゃんは、その目に私を映す。大人は「美味しくない」なんて食事の時言わないのが当たり前だから、毒入りも美味しく食べてると思ってたのね。実を言うと、私はもしもの時身を守る為に食べているだけであって、本当は大嫌い。入れない方が美味しいに決まってるわ!
その時、執事の一人がやってきて、



「名前様、お持ち致しました」



と頼んでおいたクッキーやジャムサンドやサンドイッチと温かい飲み物を持ってきてくれた。



「毒の方はいかがなさいましょう」
「実は主人が心配するから言わなかったのだけど、少し体調が優れないの。だから毒は遠慮させていただいてもいいかしら。イルミちゃんも付き合ってもらってもいい?」
「え、おばあさま…」



私の膝の上で戸惑ったように何か言おうとしたこの子に一つだけウィンクをすると、「…わかった、しかたないよね」と話を合わせ、小さく頷いてくれた。



「か、かしこまりました。それは良いのですが、奥様、無理はなさらないで下さいね。何かあればすぐに申して下さいませ」
「ありがとう、優しいのね」
「ぼくがたすけるからだいじょうぶだよ。ね、おばあさま」
「ふふ、そうね。イルミちゃんに頼っちゃおうかしら」



春の麗しき昼下がり。その日食べたジャムサンドは、ひどく甘かった。





2021.02.18