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昨晩、大好きだったはずの彼と喧嘩した。
私はただ、ニートの彼にそろそろ働いてほしいと言っただけ。
彼は私に「お前は養ってくれると思ったのに裏切りかよ」とキレた。彼とは高校からの長い付き合いだが、改めて確信した。クズだ。こいつはクズだ。

朝。起きたら彼はいなかった。
もうこのまま、私たちは会うこともなく、別れるのかもしれない。
そう思うとなんだか寂しくて、悲しくなって涙が目に膜を張り始めたけれど、仕事に間に合わなくなると思い無理やり涙を拭って、
ひとり
「いってきます」と誰もいない部屋に呟いた。もちろん、返事は無い。







『何でまた来てるの!?』

「悪ぃか!!」

『いや、悪いかっていうかさ…!』



そして、仕事から帰ってくると実家に戻ったと思っていたはずの彼が、また当たり前のようにソファーに座っていた。

彼は開き直っているようだが、私たちは昨日、喧嘩したのだ。



『実家に帰ったと思った』

「帰ったよ。飯は」

『いる…。じゃあ何で戻ってきたの』

「弟に怒られたんだよ」



当たり前のようにごはんの用意をしてくれていて、言葉は鋭いのに、やってることは優しい。その温度差に私の頭と心はパニックで眩暈を起こしそうだ。

テーブルに次々に並べられていく二人分の夕飯に、私は今だ通勤用バッグを肩から提げたまま呆然と見つめていた。お味噌汁をつぎおえテーブルにお椀を置いた彼は「いつまでそうしてんだよ」といらいらしたように言った。



「お前のために作ったのに、飯が冷めるぞ」

『な、によそれ…』



どうしてそんなに普通なんだろう。
「裏切りかよ」と私に言ったのに。
私はそれがとっても悔しくて、悲しくて、たくさん泣いたというのに、



「昨日のこと、ごめん」



あっさり出てきた謝罪の言葉は、私の涙を止める。



「俺が悪いのは分かってんだわ。でもさ、元カレが結婚してそっちにしとけば良かったとか、その流れで働けとか言うのは酷だと思わねぇ?こんなにも俺はお前のこと想って毎日お前を仕事に送り出して家のことして、お前のために飯も作ってるのに、それはねぇだろ。」



やっぱり逆ギレだ
とも思ったけれど、まさかそんなに想われていたとは思わなかった。



『私は、ただ…おそ松と幸せになりたいから、結婚のこととか将来のこと考えたらおそ松も仕事してた方がいろいろ良いんじゃないかと思って言っただけで、そんな、おそ松が想ってくれてたとか知らなくて…』



涙がまた溢れてきた

嬉しいような、悔しいような、幸せなような、



「ちょ、ちょ!は!?今なんて!?」

『は…?』

「け、結婚!?将来!?は!?え!?ちょ、は!?」



彼の言葉は散乱していて、パニックに襲われているようで、ぶつぶつ何か言いながらぐるぐると忙しなく目を動かしている。

そしてばちっと目が合ったおそ松にそのまま両手を彼の両手で包まれた。



「俺との将来、考えてくれてたの…?」



おそ松が頬と耳までも赤くして言うもんだから、



『おそ松としか、考えてないよ』



なんていつもは言えない素直な言葉も言えてしまうのです。



『私とけっ、』

「あぁー!!ちょっと待て!!それは、俺が言う!!」




すー、はー
すー 、はぁ …
おそ松は何度も深呼吸をした。
そして私の目を見つめる黒い瞳は、私の大好きな目。



「こうめ、俺と結婚してくれますか」

『…はい』



二人顔を見合わせて、
こみ上げてくる喜びを噛み締めるように笑うのは、こんなにも幸せなことなのだ。



『家事は半分こしようね』

「生活費はお前持ちな」

『いずれはおそ松に払ってもらえるようになりたいなぁ』

「ビッグなレジェンドになるには時間がかかるんだよ!」

『はいはい。気長に待ちますよ』

「あ、お前信用してないな?」

『そんなことないよ、パパ』

「は?パパ…?」

『赤ちゃん出来たの』

「あぁなるほど。それでパパか。」

『うん』

「…、はああああああ!!!?!」




目が飛び出そうなほど驚く彼を他所に、彼が作ってくれた美味しいごはんが冷めないうちに食べたい私は席に座って、手を合わせた。


今日も幸せを、いただきます。