蒼への祈り
(少し前、雛罌粟二十五歳)
「雛罌粟って妹がいるんだっけ?」
五条さんに尋ねられた時、不意にどくりと心臓が揺れた。
何で知ってるんだろう。
「そんなにビビんなくて良いって!取って食うわけじゃないんだから!」
『妹、います。可愛い妹が』
「はは、だよねー。俺も“ 釘崎 ”の苗字を見た時、アレ?ってなったんだよねー」
『一体何のこと、』
その時だ。
電子端末かブー、ブー、と一定に揺れる。
ポケットから取り出すと画面にはちょうど話題になっていた妹の名前。
「誰から?」
『妹…』
「出なよ」
それは最愛の妹からの、「呪術高専に転入することが決まった」との連絡であった。
私にとっては死刑宣告のように重い言葉で、聞いた瞬間頭を鈍器でかち割られたような衝撃だった。
「姉妹で呪術師とはね。君達やるねぇ」
『…』
来てほしくなかった。
だけどいつかはこの日が来てしまうのも分かっていた気がする。
代々呪術師として生きてきた家系に生まれたからか、幼い頃から他の人には見えない不気味なものが見えていた。
小さな野薔薇ちゃんが私と同じ方を見て、「雛罌粟ちゃんこわい、たすけて」と私の体に小さな腕でしがみつく野薔薇ちゃんを知って、すごく落ち込んだ日を覚えてる。
そして野薔薇ちゃんが私よりも祓う力があると分かった日も、落ち込んだ。
十も離れた私達が一緒に過ごした時間は短かったけれど、それでも私は野薔薇ちゃんを大切にしていたし、野薔薇ちゃんも私のことを慕ってくれている。(と思いたい。)
私が高専に入ってからずっと、野薔薇ちゃんにはこの世界には来てほしくなかった。あの子にはこんな苦しみ味わってほしくなかったし、もしも怪我をしたり、最悪命を落としたら……
毎日祈った。
どうか、一日でも長く、
あの子がこの世界に来ない日が続きますよう、と。
祖母は私の力では家業は継げないと分かっていたからすぐに高専に行かせてくれたけれど、野薔薇ちゃんの力は強いから継がせたかったみたいで、高専には反対していた。それで良かった。だけど、
その日がとうとう来るのだ。
『…五条さん、あの子の…、私の妹の担任になったりしませんか』
「なに、どうしたの急に」
『どうせ来るのなら、あの子が死なないように鍛えてほしいなって…』
「…可愛い後輩のお願いなら聞いてあげなくもないなー」
これからも毎日祈ろう。
どうか、野薔薇ちゃんが一日でも長く、
この世界にいてくれますように、と。
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