東方司令部に大佐と話しに来てやった時、つい怒りで感情が高まりカップを引っくり返しコーヒーをこぼしてしまった。 「もう〜!何してんの兄さん!」 「俺のせいじゃねえ!」 「落ち着きたまえ、鋼の」 「うるせえ!!」 「ほら、袖にコーヒー付いてるよ。これで拭いて」 アルは猫の刺繍が入ったハンカチを出した。 数ヶ月前、この近くで知り合った女性に貰ったものだ。アルはあれからずっと離さず持っている。 「おや」 大佐がハンカチに目をつけた。そうだ。大佐は俺達と大佐の奥さんが出会った事を知らないはずだ。 面倒なことになる前に知らねえフリをしよう。 「良いハンカチだな。何処で買ったんだ?」 「知らねぇな」 「あくまでとぼけるつもりなんだな? …夫である俺が彼女の刺繍を間違えるはず無いだろう」 「きもちわり!」 「妬みか」 「違ぇよ!」 「何処で知り合ったんだ?」 「外」 「この近くの公園で!ベンチがいっぱいだったんですけど、刺繍をしていた名前さんが“隣どうですか”って空けてくれたんです」 「全く…どこでも始めるんだな彼女は」 「大佐が黙って待っていれば私が怒ることもなく、彼女が刺繍を完成させるほど待たなくて済んだんですけどね」 「中尉…君は一体誰の味方なんだ…?」 「私は奥様の味方です」 マジで何であの人は大佐と結婚したんだ。 2021.06.17 |