(もっと若い頃の話。色々と何となくの感覚で読んでもらえると嬉しいです) 名前はスーパーヒーローやプリンセスが出てくる本が大好きで幼い頃からよく私に話して聞かせてくれた。中でもプリンセスと騎士の恋の物語が特にお気に入りで、何度も話してくれたっけ。 私はおとぎ話よりも楽しそうに離す名前が好きだった。きらきらと瞳を輝かせる彼女は本当に愛らしくて話を真剣に聞く(ふりをしている)私に嬉しそうに語り掛けるのだ。 幼い頃から続くその時間は何よりもかけがえのないもので、年齢を重ねるにつれて彼女は習い事や家の用事が増え、私と会う頻度は減った。 けれど一度の逢瀬をもっと大切にするようになっただけ。 一度、約束していた日に名前は来なかった。 次の日も、その次の日も。 こんなこと初めてで、昔から行き慣れた名字家を訪れてみた。 相変わらず大きな家。ここら辺じゃ一番おおきくて、そして歴史がある家。 幼い頃は名前と遊ぶ為に訪れる度に門の両端に構えるガーゴイルの顔が怖くて、名前早く出てきて!なんて思っていたっけ。 大きなドアの戸を鳴らすと中から顔見知りの執事のお爺さんが顔を出した。 「リザ・ホークアイです。ご無沙汰しています」 「リザさん。お久しゅうございますね」 「名前さんにお会いしたいのですが」 その途端、執事から朗らかな笑顔が消えた。 いつも笑顔で出迎えてくれる彼は、私の顔を見るなりハッとして近くを通ったは名前の乳母にひそひそと相談していた。少々お待ち下さいと言い残しどこかへ向かい、私は閉じたドアの前に一人佇むことになる。 一体何があったの。 次に現れたのは、執事が相談相手に選んでいた乳母のおばさんだった。 「どうか、名前様のお心の支えとなってあげてください」 やっぱり名前に何かあったんだ。 それだけは分かる。 乳母は名前の部屋へと一緒に向かう。幼い頃から行き慣れた道は目をつぶっていても歩いて行けると言うのに、その道のりはひどく長く感じた。 乳母がドアをノックをして、そっと話しかける。 「名前様、リザさんがいらっしゃいましたよ」 それだけ言うと乳母は小さく頭を下げ、引いていく。 その背中が小さくなる頃、ドアがゆっくりと開いた。 「名前」 『リザ…』 いつもの元気がない。 俯いていて表情は見えないけれど、少し掠れた声。 風邪を引いたのだろうか。 彼女の喉が小さくごくりと鳴るのが聞こえた。 『あのね、驚かないでね』 震えた声だった。 顔を上げた彼女は 左顔半分が殴られたような打撲の跡。目の上は切れて腫れ上がり、頬は赤黒く変色している。 「一体、何が…っ、?!」 『…会おうと約束していた日があったでしょう…?あの日路地裏に連れ込まれて、それで…』 私は初めて腸が煮えくり返るような感情になった。 「だ、れが…」 『知らない人。もう軍の人が捕まえてくれたわ』 「…っ」 怒りで言葉がうまく出てこない。 「暴行、されたの…?」 『服を脱がそうとしてたの…でも私が抵抗したから殴られたの…それでも私嫌で、逃げようとしたら何度も顔をぶたれて…その隙に身体を触られて、それで…っ、うぅ…っ』 「っごめん!もういい!話さなくていいの!」 足が崩れしゃがみながら肩を震わせて涙を零す。 彼女が一体どうしてこんな目に合わなければいけないのか。 『お姫様と騎士の話、覚えてる?』 「…えぇ。貴女が好きな本よね」 『そう。暴力を振るわれた時ここで私の騎士が助けに来てくれたら…なんて考えちゃった。いるわけないのにね。 私、頭までおかしくなっちゃったのかな』 なんて垂れた眉で笑う。 『ねぇリザ…こんな私でも抱きしめてくれる…?』 あまりに彼女が愛おしくて、強く抱きしめる。 『愛してるわ、リザ…』 名前は私の肩に濡れた目を押し付けるように顔を埋めた。 2021.06.17 |