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初めて彼女と会った時、口の周りやスーツが汚れることにも無頓着に黒いベトベトした液体で汚しながら悪魔を食っていた。

名前の元に連れてきたのはマキマさんだ。




***



「急なんだけど今から会わせたい子がいるから漁港に行こう。アキくんと絶対合うと思う。
あー、でもどうしよう。やっぱり会わせるのやめようかな」
「え、何でですか」
「私だけが知ってる可愛い子だから。人数合わせだけど、私とバディしたこともあったんだ。いい子だよ」


マキマさんにそう言わせる見知らぬソイツに正直嫉妬した。どんだけすげえ奴なのか知らねえが、俺以下だったら殺す。男だったら尚更殺す。そして現場の漁港に着けばもう悪魔は始末されていた。巨大イカの悪魔。


「わぁ。もう終わってたね。“あの子”帰ってないといいんだけど」


また、“あの子“ か。

一体どいつだ。すると、ふと醤油が焦げる香りがふわりと鼻腔を掠めた。腹の虫が鳴きそうだ。マキマさんもそれには気付いているようで、匂いの先を探していた。


「絶対あそこにいる。」


マキマさんは楽しそうに口角を上げ、足早に匂いの方へ向かった。
そしていたのが、煙立つ七輪の横にあぐらをかいてイカの足にかぶりつく女。

それが名前だった。


「名前ちゃん」
『? あ、マキマひゃん』
「イカ墨で汚れてるよ。はい」


名前ちゃんと呼ばれた女はマキマさんのハンカチを受け取ると真っ白な色等気にもせず口の周りの黒い墨を乱暴にふき取った。


『取れました?』
「まだ」


女の手からハンカチを優しく取り、そっと代わりに拭き取っていくマキマさんはまるで聖母のようだった。その横顔はあまりに穏やかで愛しげな目を女に向けていたのを覚えている。


「これでいいよ」
『えへへ。ありがとうございます』
「名前ちゃん、この子が早川アキくん。
ほら、前話した男の子」
『アキ?アキ……、
あぁ!初めまして!名字名前です!デビルハンター3年目です!よろしくね!』


俺より先輩かよ。


「…早川アキです。
あの、イカ焼き、焦げてますよ」
『え? あ!!本当だ!
まあちょっと焦げてる方が美味しいよね!食べる?』
「…それ悪魔ですよね?」
『そうだよ?でも美味しいんだよ!ほら記念に!はい!』
「…」
『何事も経験だよ!ほら!出会った記念に!』


屈託のない笑みを浮かべて串刺しにしたイカを差し出してくる。確かに匂いは良い。


「早川くん、食べてみたら?」


マキマさんがそう言うなら……
まあ、確かに。何事も経験だ。マキマさんも穏やかに名字名前を見つめてる。


「いただきます」


と小さく呟き食べた。マキマさんはそんな俺を見てたのにどうして言ってくれなかったのだろう。

悪魔を普通の人間が食べると激のつくほどの腹痛を起こす。それを俺はその日の夜から5日ほど経験するのだった。
そして思った。

俺は名字名前という女が苦手になった。



2020.12.04