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時折思うことがある。

もしも悪魔がこの世にいなければ。という世界のことを。

悪魔がいなければ、俺の家族は生きていた。俺は煙草を吸わなかった。
名前は左足を失わなかった。
膝枕をされた時に「硬ェ」と俺に文句を言われずに済んだ。



名前はいつも俺のもしもの話を、決まって楽しそうに笑って聞いた。

膝枕の一件は


『アキが勝手に言うことでしょ』


と笑う。

もしも悪魔がいなかったら左足を失わなかったけれど、名前は寺の娘として、寺を継いでもらう為に僧侶の若者と結婚することになったかもしれない。

悪魔がいなければ悪魔の食べ方なんて考えなかった。



悪魔がいなければ俺とは出会わなかった。


『悪魔がいたおかげでアキと会えたんだから

良い所もあるもんだね』



そう笑った能天気な目の前の女を、俺は幸せにしたいと、心臓が締まった。




2020.11.25