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ピンポン、ピンポン


ピンポン、ピンポン、ピンポン








玄関のチャイムが鳴る。









『デンちゃん出てー』
「…」



ピンポン、ピンポン


ピンポン




何度も、何度も。









『デンちゃん?』






あまりに出ないデンジを不思議に思い、台所から名前が顔を出した。






『どうしたの?』






耳障りな程ににチャイムが鳴り続けているというのに、デンジは先程のマキマからの電話の内容が頭にこびりついていた。






「マキマさんがさ…ドアの向こうにいんの銃の魔人なんだって…」
「はあ?なに寝ぼけたこといっとんじゃ!」
「いやいや、マキマさんが…」
「まだチョンマゲが帰ってきてないじゃろ。アイツが鳴らしとるんじゃ」





予想が外れていればいいのに。





ピンポン、ピンポン


ピンポン、ピンポン、ピンポン







未だ鳴り続けているチャイム。






「なあ!アキじゃろ!?」






パワーがドアに向かって叫んだ途端、



チャイムが止まった。









『…デンちゃんが出ないなら私が出るよ?』






以前よりもまた大きくなり、足元さえ見えなくなった腹をさすりながら名前はデンジの前を通ろうとした。が、それは突然腕を掴んだデンジに寄って止められた。

名前の腕を突然掴んだというのに、デンジは何も言わない。それどころかどこか困惑したように顔を青くし、口を固く結んでいる。

名前はデンジを咄嗟に怒ろうとしたが、その表情を見るなり何かを感じ取りそれ以上は何も言わなかった。






「パワー、ニャーコを連れてベランダから出ろ」
「ハァ!?」
「パワー!」
「…」
「名前ちゃんは俺が時間稼ぐからその隙に玄関から逃げてくれ」
『どういう、』
「いいから…っ」






どこか苦い顔をして焦ったような口調のデンジに名前は違和感を覚えた。しかし言われるがままにまた台所へと入れられたので、仕方なくそこから顔を出し、ドアを開けるデンジの背中を見守る。






「ニャーコ、外に散歩に行くぞ!ベランダからな!名前、夜ご飯はハンバーグじゃ!」
『あ、うん。分かった…』






いつもと変わらない風景、

いつもと変わらない会話




それなのにどこか不安と緊張感がそこにはあった。





突然、ぽこぽことお腹の中の赤ん坊がふと何かを知らせるように名前のお腹を蹴った。








「名前ちゃん、一応念の為だからな…?マキマさんの冗談だよな。

なあアキ」






デンジのその声に名前は弾かれるように顔を上げた。






『アキ……、?』







気付いた時には台所から出ていて、廊下の真ん中に名前は立っていて、隠れなどしなかった。














アキの黒くて少し硬い髪が、名前は好きだった。

アキが首筋に顔を埋めた時にちくちくと擽ったくなる感覚が好きだった。











額から突き出た銃を持つ、銃の悪魔の風貌をした目と鼻の先にいる“ それ ”はまさに名前の愛した黒髪の男にそっくりで…














昨日話したばかりなのに。

赤ちゃんが産まれたらアキに似てたらいいねって。











悪魔は死んだ人間の身体を乗っ取り、魔人となる。






目の前にいる“ それ ” は




『アキなの…?』

「……名前」




銃の悪魔が名前をぽつりと呟いた。






「何で名前ちゃんの名前知ってんだよ…っ」





名前の大好きなアキなのは間違いなかった。





その声に反応するように銃の悪魔が顔を上げる。その途端、銃口が火を吹いた。デンジは咄嗟に名前の体を庇うのように抱きしめたが、家さえも破壊するその勢いは窓ガラスを割り、2人まとめて外へと投げ出された。


デンジはまともに衝撃波を受けた為上半身と下半身がちぎれ内臓が飛び出したが名前が地面に打ち付けられないように最後まで身を呈した。しかし、地面へ落ちた際名前は酷く横腹を打ち、痛みで動けずにいた。




「デンジ!名前!」
「パワー!やっぱり銃の悪魔だった!俺がやる!アレ!?名前ちゃん、!?」
「名前!痛いのか!?」




なんとか体を起こした#名前#は涙が止まらなかった。


銃の悪魔になったのは、一番銃の悪魔を倒したがっていた最愛の人


死ぬよりも最悪だ。


そして何よりも、
















先程まで感じていた胎動が今はもう何も感じなくなっていることだった。





2021.08.13