現場を離れ内勤になった。つまり四課からの離脱を意味するので、銃の悪魔に関する内容、及び任務については報告書が提出されて漸く知る。 初めはアキやデンちゃんが討伐した悪魔について話しているのを聞く分には楽しかった。しかし徐々に仲間外れにされている気分になり、仕事の話が居間で始まると席を外すようにした。無闇矢鱈に気持ちを乱さなくていいように。 そんなある日だ。 最近機嫌が特に良いデンちゃんに今日の夜ご飯は要らないと言われた。 これは珍しいことだ。 デンちゃんとパワーちゃんも夜に仕事があることもある。その時でさえも夜ご飯は必ず作って夜中を過ぎてでも食べていた。外食をしたとしても寝る前にはお腹が空くらしく「何か作って」というくらいだ。これに関してはめんどくさいので辞めてほしい限りだが、とにかく何があっても必ず私のご飯を食べるデンちゃんが「今日飯いらねえから」だなんて。 『分かった。お仕事?』 「いんにゃ!学校行くんだ!」 『学校?』 「俺の事が好きな女と!」 『えぇ?』 とりあえず何だかよく分からなかったけど、デンちゃんが嬉しそうなので気持ちは汲み取った。 『今夜は雨が降るみたいだよ。傘持っていってね』 「分かった!」 元気に返事をした彼は、傘を忘れていった。 *** アキと一緒に行きたいなと思っていた花火大会はアキは仕事が入るわ、私は悪阻が酷く吐き続けるわで花火を楽しむどころじゃなかった。 救急車やパトカーの音がよく聞こえていたのは知っていたが、まさか“ ボム ”が襲来していたとは。 花火大会に行ったっきり帰ってこなかったデンちゃんが明け方帰ってきて、何か荷物をまとめながら教えてくれた。 『どこか出かけるの?』 「うん」 デンちゃんは目を合わせなかった。 『夜ご飯はいる?』 その時一度私を見て何か言おうとしたけれど、何も言わず。 立ち上がり玄関へ向かって行く。 聞いてなくても話してくれる子だから、きっと何か決めたことがあるのかもしれない。私も『一応用意しておくね』と言ってそれ以上はもう何も言わなかった。 デンちゃんはいつもみたいに一言「いってきます」と言って玄関を出ていった。 『…朝ごはん食べよっか』 ニャーコが同意するように鳴いてくれたのが、少し寂しくなった私の心を癒してくれた。今日はちゅ〜るあげちゃおう。 *** 結果から言うと、デンちゃんは帰ってきた。 もしかしたらもう帰ってこないかもしれないと思っていたから、私は嬉しくてつい口角が上がった。だけどデンちゃんの珍しく沈んだ感情が見える顔に口を静かに閉じる。 後ろには血抜きに数日家を空けていたパワーちゃんもいて、私の名前を呼び腹が減ったとうるさかった。パワーちゃんは無事に終わったみたいで良かったね。 「…名前ちゃん……。恋って、難しいね…」 『…デンちゃん、恋をしてたんだね』 「ん…」 俯いて口をきゅっと寂しそうに結んだ。何か今のあの子にあった言葉は無いか考えていると 「帰ったぞーー!!!ニャーコ〜!!」 知ったこっちゃないと言わんばかりにパワーちゃんがドタドタと忙しなくニャーコを追いかけ、私達の間を駆けていく。 「…ちょっと食っちまったけど、名前ちゃんにやるよ。この花束……」 ずっと気になっていたデンちゃんの持つ花束がゆるりと私の方へ向いたので、そっと受け取った。 『…初めて、誰かの為にお金使ったんじゃない?』 「……かもなぁ。」 『……、 お腹空いてない?美味しいもの作るよ!』 「…いらねぇ……」 『そっか…』 「名前!!わしは腹が減ってるぞ!!」 いつもなら、食う!!!と元気に返事をする元気と素直だけが取り柄のデンちゃんが今日だけは憔悴した様子でへたり、とテーブルの傍に座った。 私は受け取った花束をテーブルに置き、そっと隣に腰を下ろす。 何か私に出来ることは無いか。必死に能天気な頭を働かせた。 アキが元気がない時はおっぱいを揉ませればいい。でもデンちゃんにはそういうわけにはいかない。…いや、駄目だろ。それは駄目。 虚無感を漂わせながらぼー…っとするデンちゃんより、元気なデンちゃんの方が好き。 『……デンちゃん』 「んー……?」 空っぽの顔をするデンジを抱きしめた。 「……え…?」 『大丈夫。デンちゃんはいい男だから。きっとまた素敵な女の子が現れるよ』 よしよしと後頭部を撫でた。 デンちゃんの空っぽだった顔は感情を取り戻し、徐々に赤らんでいく。 「あ……!う、名前ちゃん……!」 『ん?』 「俺、名前ちゃんのこと好きになりそう…!」 『それはダメ』 ティーンエイジャーの気持ちの移ろいは早いから、きっと大丈夫。 2021.01.24 |