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「神奈川県警より来ました。警部補の椎名です」
「退魔二課の古野です」
「特異四課隊長 岸辺だ。今回警察と退魔二課は一階と地下の出入り口を封鎖。特異四課で中にいるテロリストを制圧する。その上で貴方達が注意すべき事は一つだけ」



岸辺は目の前にいる二人を見て淡々と言葉を並べるように話していく。



「特異四課はほとんどの隊員が人外で構成されている。四課の誰かが町に逃げたらテロリストが暴れるより被害が大きくなる。今回貴方達にはテロリストではなく、四課と交戦になった場合に備えて隊員の特徴を伝えておく。」



岸辺は魔人達の特徴を言い終えると「何か質問は」とだけ言った。声を出したのは県警から来たという椎名だった。



「魔人達は単独で行動しているのでしょうか」
「いや。それなりに経験を積んだ俺のカワイイ部下が二名程付いている。」
「ではその方々は…」
「あいつらはやられてもそう簡単には死なんと思うが、まぁ殺されて制御不可能になって飛び出してきた時が貴方がたの出番というわけだ。」
「はあ…」



“ カワイイ ”等と言っている割には雑な扱い方をするな、と椎名と古野は思ったが、これが噂に聞く“ 公安特異四課には頭のおかしい奴しかいない ”の考え方なのであれば、噂通りだと自分に言い聞かせるしかなかった。




***



岸辺にそんな雑な対応をされているとは露知らず、アキと名前達は地下駐車場で蠢くゾンビ達と戦闘中だ。



≪全く、魔人の子守なんてアンタもマキマの犬ね!≫



宝石の悪魔が宿った指輪が名前の右手の中指できらめいた。
名前は先日マキマの執務室にアキと呼ばれたことを思い出す。













マキマに二人揃って執務室に来るよう言われた時、正直二人はこの間公安の車のバッグシートで“ 仲良く ”した事がバレて言及されるのではないかということの心配をしていた。



『アキがヤろうとか言うからマキマさんに呼び出されることになったんだよ』
「ハァ…!?お前も乗り気だっただろうが」
『二人一緒に呼び出されるなんて初めてだし…
クビかなぁ…!?』
「まだその件と決まったわけじゃねェだろ。」
『そうだよね… はぁ、胃が痛い』



しかし意を決して執務室のドアを開けてみれば、そこにいたのは見知らぬ魔人達。



「来たね、二人共。
実は君達二人、一時的にバディになってもらうって言ったけど今日で解散ね。」



やっぱりバレたんだ!
名前は顔を青くしたが、「その代わり、」と続くマキマの声に耳を傾けることは忘れなかった。



「今度の制圧任務に先立ち、二人には魔人達と一緒に戦ってもらいます」
「…魔人と、ですか」



明らかに嫌悪感のある声を出したのはアキだった。アキの予想通りの反応にマキマは内心小さく笑いながら



「お仕事だから仕方ないよね。名前ちゃんはどう?」



と名前を見た。



『私達がバディで無くなるのなら、魔人の誰かとバディになるってことですよね』
「そうだね。それを話して無かったね。
アキくんは天使の悪魔と、
名前ちゃんはプリンシとお願い。ただ、プリンシは結構理性的でね、私の命令がよく聞ける子なの。だから名前ちゃんにはビームのお世話も兼任したいと思ってるの」



この子、とマキマが指さす先には鮫の頭をした青年の姿をした魔人がいた。
「暴力はコベニちゃんって女の子と一緒にやってもらうからね」という一人バディを言われていなかった暴力への言葉も忘れずに。



「マキマ様!人間の女じゃない!チェンソー様と一緒がいいって言いました!」
「いきなりデンジくんの元に行かせるのはこちらとしてもデメリットが多い。名前ちゃんの元で少し特異四課としての動き方を学んだらねって話したでしょ」
「うう…!」
『デンちゃんのこと好きなんだね』
「好き!!俺、チェンソー様の為なら何でもする!!」
『私、デンちゃんの写真持ってるよ。欲しい?』



名前が公安手帳から取り出したのは折り畳んだ写真。以前暇を持て余した岸辺がインスタントカメラで早川家と名前を撮ってくれたものだ。



「チェンソー様!!紙の中いる!!」
『一緒に頑張ってくれたらこの写真あげるね』
「他の奴いらない。チェンソー様だけ欲しい!!!」
『うーん、ビームくんのお仕事次第で検討します』



こうして名前はビームとの仲を少しずつ縮めていった。
魔人を心底嫌うアキと違い、名前は前向きなのである。












閑話休題。



「名前!考え事してると食われる!」



目の前をビームの鮫頭が勢いよく横切りゾンビに食らい付く。慌てて意識をクリアにした名前は『ありがと』と指輪の付いた右手を前に構えた。宝石の悪魔が宿った指輪を付けた右手で対象物を殴ると、硬化し、鉱石にすることが出来る。その硬度はその都度宝石の悪魔に要相談するのだが、今回は名前が殴って硬化し、それをビームが体当たりして崩しゾンビを粉々にするという作戦で行うことにした為、硬度は低めだ。

だがビームは三回に一回しか作戦通りにはしない。ゾンビを倒しているのなら、まあいいかと名前は思うが…
ゾンビはいくら倒しても溢れ出ているのではないかと疑いたくなるほど、まだまだ沢山いる。これでは埒が明かないと考えた名前は、少し離れた場所でゾンビを倒すアキの元へ移動する(勿論その間もゾンビを殴り倒していくことも忘れずに)。



『アキ!』
「名前 そっちはどうだ」
『倒しても倒してもまだまだいる』
「そうか…」
『このまま皆でここで倒してても時間が勿体ない気がする。
アキは先に進んで沢渡アカネ達を探してきて』
「だが、」
『大丈夫!まだまだジュエリーちゃんも元気だし!ね、ジュエリーちゃん』
≪もうクタクタよ!≫
『ほらね、元気!
それにここのゾンビは動きも遅いから魔人達がやっつけてくれるよ。だから、先に行ってて。ここが終わったらすぐに行くから』
「…気を付けろよ」
『うん。アキもね』



アキは名前の髪を一束さらりと流すと、天使の悪魔の方を見た。



「天使の悪魔、お前はここで名前達の援護をしろ」
「えー…」
『よろしくね』
「…名前、後でな」



先に向かおうとするアキに名前は今日一番の満面の笑みを浮かべて見送った。
アキの背中が見えなくなる頃、天使の悪魔が「ねえ、」と名前に声を掛ける。



「君達って恋人同士かなんか?」
『えっ、何で…
もしかして天使の悪魔って、恋のキューピットもしてたとか?』
「そんなわけないじゃん。
君の彼氏、君と話す時だけめちゃくちゃ甘い目で君のこと見るんだなと思っただけ」



名前を見つめるあの瞳が甘いだなんて。
まさか悪魔にそんなことを言われるなんて。

名前はあまりの恥ずかしさに顔が熱くなりながらも口元は無意識に弛んでしまっていた。



『照れちゃうなぁ〜』
「ちょっと。そういう惚気はいいから、早くゾンビ倒そうよ」
『う、分かってるってば!』



今日もしも無事に家に帰り着くことが出来たなら、夕食は寿司でも出前を取ろう。
そんな暢気なことを考える名前は先を行く天使の悪魔の後を、もたつきながら追った。





2020.12.31