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あれから私は一人家に戻った。キャリーケースの荷解きもそのままに、帰り道も家に帰ってきてからも、ずっと考える。



『ジュエリーちゃん、話があるの』



その呼び掛けを合図にジュエリーちゃんが現れた。



《あら。真面目な顔なんて珍しいわね。何の用かしら》
『鉱物化する精度って高められるの?』



ジュエリーちゃん、宝石の悪魔は人間でも何でも鉱物化し、固めることが出来る。



《鉱物の硬度を挙げることは出来るわよ》
『一番高く…
ダイヤモンドにするにはどうしたらいいの?』
《そんなの決まってるじゃない。契約更新よ。でもどうしてそんなことしたいの?》
『アキはもうすぐ銃の悪魔にたどり着いちゃう。
でもこのままじゃあの人犬死しそうな気がするから… 私もアキの力になりたい』
《分かってると思うけど、銃の悪魔は簡単じゃあないわよ》
『それでも今よりマシになればいい。
…ジュエリーちゃんって、悪魔なのに私の事よく心配してくれるよね』
《ほっといて!…アタシが身体のどこかを貰うかもしれないわよ》
『それはやだ』
《なんて傲慢な子。
契約しましょうか、名前》
『うん』
《あんたの髪を私に頂戴。そしたら私の能力をもっと使わせてあげる》
『……それでいいの?』
《何よ。両足無くしたいっていうの?》
『うそうそ。私の髪の毛あげる』
《契約更新ね》






***




頭がイカれたアル中野郎の特訓から家に帰ってきたのは、いつもの夕食を食う時間をとうに過ぎた頃だった。

ぐったりとした俺らは微かに残っている力で玄関のドアを開ける。腹の虫が鳴き喚く。ソースのいい香りがした。玄関には名前ちゃんの靴がある。



「名前〜〜〜〜!!帰ったぞ〜〜〜!!!」



さっきの疲れはどこへやら。パワーがアホほどデカい声を出しながら走っていった。


『あ、パワーちゃんおかえり〜
デンちゃんも一緒?』
「何だその茶色い麺は!!!」
『焼きそばだよ』
「やきそば!!!」



パワ子のアホ声はほっといて、
名前ちゃんの優しい声は疲れた身体に染みる……



「腹減った〜〜〜」
『あ、デンちゃん。おかえり』
「え」



優しく笑う名前ちゃんの背中まであった長い髪は、無くなっていた。



「髪が、無い」
『いや、あるよ』
「ホントじゃ!!!名前!!!悪魔にむしり取られたか!!!」
『…
髪切っただけだよ』
「何で!?!」
『ええ〜 何でって……
……そんなに似合ってないかな』



首が見える程短くなったえりあしを抑えながらチラリと上目遣いで俺を見る名前ちゃん。



「似合う!!可愛い!!」



カワイイ!!

アキのカノジョだから下手に触ると切られるから手出せないけど!!



「わしは最初から名前の髪が短くなってカワイイことに気付いてたぞ!!!」
『そう? ならいいや。
ほら、手洗って着替えておいでよ。ごはん食べよう』
「分かった!!!」



名前ちゃんは、しっかり手を洗って着替えまでしないと飯を食わせてくれない。手に洗い残しがあると綺麗になるまで何度も洗わせられる。
パワ子は一緒に住むようになった初めこそ拒否してたし、雑に洗っていたけど、名前ちゃんがいる時はこれだけはやらないとマジに飯を食わせてくれないから、今ではしっかり守っている。



「箸並べる〜」
『わ、助かる。お箸三膳並べてね』
「あれ。名前ちゃんまだ食ってねーの?」
『そうだよ。デンちゃんたち待ってたの。だからお腹ペコペコ』
「腹減ってんなら先食うだろ」
『一人で食べても美味しくないじゃん。
だから早く手洗ってきて。一緒に食べよ』



心臓がぐっと掴まれた。

アキが過保護になる理由が分かる気がした。



「あ!そうだ!なぁ名前ちゃん!メガネあるか?!」
『メガネ??デンちゃん目悪くなったの?』
「いや、俺は悪くねぇよ」
「あ!!!わしも欲しい!!!」
『??』





***




次の日。デンジとパワーは朝からいつにも増してやる気に満ちていて、「アル中を今日こそ殺す!」「絶対殺すぜ!」と物騒なことを言いながら朝食をよく食べ、そそくさと着替え始めた。昨夜名前から受け取った伊達メガネも忘れずに。
名前はあまり気にせず朝のニュース番組を見たり、新聞を見たりした。朝はあっという間に時間が過ぎるものである。


食べ終えた食器を洗い、片付けていると玄関から物凄い破壊音が聞こえる。それに重なるように激しい音がして、直ぐに静かになった。



慌てて音がした玄関の方を見に行くと、そこにはパワーが床に倒れている姿が。



『!! パワーちゃん!!?ドアに穴が開いてる…!!悪魔が来たの!?』
「アル中じゃ……」
『え?』



玄関から探るようにゆっくりと扉を開けて外に出れば、デンジが額に刃物を刺され血を流し倒れていた。顔は平気そうだ。



『デンちゃん!大丈夫?』
「大丈夫……」
「おぉ、名字じゃねぇか」
『!! 先生…!』
「お前がそう呼ぶと生徒と教師のアダルトビデオを思い出す」
『またそんなこと……』



アル中野郎はスケベジジイでもあるのか。
アキにチクろ。デンジは思った。



「何だ。お前、バカ悪魔二匹の世話させられてんのか」
『あ、いや…』
「……そういやぁここ、アキん家だな。」
『あ…』
「お前まだ早川のこと好きなのか。死にたがりのあいつじゃ、お前が泣いて終わる未来しかねぇぞ」
『ほっといて下さい』
「……まァ若者の恋沙汰に口出しするほど爺になったわけでもねぇしな。」
「十分ジジイだろ……」
「お、まだ喋れたのか。
名字、今からお前も飲むか?」
『いえ、これから京都から来た指導員の方々と一緒に早川くんの悪魔との契約に同行するので』
「…お前も好きだな。 じゃあまた今度だな。」


スタスタと帰っていく背中を見つめながら名前は思った。

先生、またお酒臭かったな。





2020.12.13.