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狸の悪魔と契約をした時、太腿から足を食いちぎられた。悪魔は無事に倒せたものの、私はそのまま病院送り。出血多量で一時は死にかけたものの、身体に合う義足を付けることが出来た。

地獄はそれからだった。

高熱が続く。熱が下がれば義足でのリハビリが始まった。今まで普通に歩けていたのに、義足になった途端、赤子のように立つことさえ出来なくなった。


“少しずつでいい”


見舞いに来る同僚たちは優しさから皆そう言うが、その足で悪魔の討伐にいく。

いいなぁ。
自由に動けていいなぁ。
私も、自由に動いていたんだけどなぁ。

契約をしたのは自分の意志だが、まさかこんなにしんどいとは。同僚が帰った後はいつも病みそうになる。


そしてその日の夜。
また高熱が出た。
きつすぎて眠ることさえ出来なかった。

そんな時、ひんやりとした手のひらがすうっと頬を撫でた。
微かに目を開けると、そこには薄らと笑う美しいの女顔があった。



『マ……キマ、さ……』
「しんどそうだね、名前ちゃん」
『今すぐ、死にたいです……』
「そっか。」



そっかって何だよ。苛立つものの何も出来ない身体により苛立ちが湧く。

今となっては何故真夜中の病院にマキマさんが入ってこれたのか、何故私の病室に来ようと思ったのか不思議だが、この時はそんなこと考える余裕さえ無かった。

ただ目の前にいるこの無機質な美しい女性が憎らしいという感情しか湧かなかった。



『用が…無いなら、帰って、下さい…』



熱に浮かされた私に理性等皆無に等しい。とにかくこの時はマキマさんに腹が立っていた記憶しかない。

するとマキマさんが私にそっと手を伸ばしてきた。高熱を保った私の額に置いた指先はひんやりとしていてとても気持ちがいい。柔らかに前髪を撫でてくれるマキマさんの瞳は優しかったような気がする。



「苦しいね、きついね」



マキマさんの口から出る言葉は、脳に直接響く。



「これからもっと辛くなるよ」



撫でる手が止まり、マキマさんの顔が近付いてきた。ここまでは覚えているのだが、この後が思い出せない。口を開いて何か言っていた気がしないことも無い。

きっと眠ってしまったのだ。
惜しいことをしたな。あの綺麗な顔を間近で見れるチャンスだったのに。

でも一体、マキマさんはどうして私の所にきてくれたのかな。







《名前ちゃん、私の為に死ぬと言いなさい》





2020.12.06