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【東京都**区在住の40代男性 駅ホームから転落 意識不明の重体】



アナウンサーが真面目な声で読み、テレビで流れるテロップを俺はぼんやりと眺める。トーストを咀嚼する片手間に見ていたものだから名前は見逃した。しかし居住区が同じであることからはっきりと意識が向く。

ここ最近、同じ居住区内での大小問わずの事故が多い気がする。性別も年齢もバラバラ。しかし起きているのは明らかに俺達の学校近隣だった。

事故だけではない。昨日起きた一般の住宅を狙った強盗も、俺の住む区、というか隣町の駅からすぐの所だ。名字さんちの近くじゃないか?

ここ最近と言っても毎日というわけではないし、元々そんなに治安がバツグンに良いという地域でもない。偶然なんだろうな。


テレビの中にいる解説のおっさんは、経済が回っていないからだの、学校でイジメがあったからだの勝手に決定付けている。



学校に行くつもりだったが、おっさんの妄想でしかない勝手な決め付けを聞いていたせいで、家を出る時間を逃し、もう一限には間に合わない。


今日は自主休校だ。





***




今日は朝から霊にも逢わず、気分が良かった。昼食前の体育はやる気が出なかったけど、それでもいつもよりは素直にバレーボールをすることが出来た気がする。(いつもは目や足に霊がとりついて上手く身体が動かない時があるからね!)

体育の授業が終わって着替えて先にクラスへ戻った友達の元へ急いでいる最中のこと。



「名字また幽霊憑いてるとか吉田くんに言ってたらしいよ」
「怖〜」
「どうせ目立ちたいだけでしょ」
「注目浴びたいからそういうこと言う人、やっぱりいるんだね」


前を歩くカースト上位の女の子達からそんな声が聞こえてきた。その内の一人が後ろにいる私に気付き、「いるよ」と声を掛け、そして静かになる。…そんなあからさまな。

急ぎ足で彼女らの隣を通ってクラスへと小走りに急ぐ。というか何で私がこんなみすぼらしい気持ちにならないといけないんだ。




最近、一部の女の子から冷ややかな目で見られることが増えた。

あの子たちに何かしたっけ、と考えても何も思いつかない。




「それ、吉田くんと最近仲良いからじゃない?」
『え。』


先にクラスへと戻った薄情な友達、モモちゃん(昼までに提出の課題を出してなかったから急いで出しに行ったのだ)は呆れた、とでも言いたげに相談した私を見る。


「名前は気付いてないかもしれないけどさ、吉田くんってめちゃめちゃ人気あるんだよ?」
『そ、それくらい私にも分かるよ』
「そんな人は自分からファミレスに誘って行ったりしないでしょ」
『誘ってきたのは吉田くんだよ!』
「どうかね〜
そうか〜やっと名前に春がやってきたか〜」
『言い方!てか違うって!』


コーヒー牛乳のストローをくわえてニヤつくモモちゃん。

吉田くんはそういうのではない。
霊を断ち切ってくれる私の心強い友達だ。



「吉田くんって、コトの“悩み”解決出来るの?」



小学校からずっと一緒のモモちゃんは私が視えることを知っている。その上でずっと仲良くしてくれる本当に貴重な人材だ。



『うん。それに除霊出来るんだよ!』
「へえ〜
でもさ吉田くんの悪い噂、後を絶たないよね」
『そうなの?』
「そうだよ。
ヤクザの息子だとか、年上の女の人とホテルに入るの見ただとか」


あの眠い眠い言っている吉田くんが、ヤクザの息子? それに年上の女の人とホテル?まぁ確かに優しいし、霊が来ても怖がらずに蛸で断ち切ってくれるもんなぁ。



「名前も気をつけなよ」
『うん。ありがとう』



吉田くんのことも、それを取り巻く女子達のこともだよ。

そう言ったモモちゃんは心配そうに私の肩を優しく叩いた。




***





そしてその日の帰り。

私は例の女の子達に靴箱で声を掛けられ、南棟の裏庭へ連れていかれた。

モモちゃんの言っていた通りだ。



「名字さんさ、最近吉田くんとよく一緒にいるけど、付き合ってんの?」
『え、あ… 付き合ってるとかじゃ…』
「じゃあ何?何で近付くの?」
『それは…』






“霊が見えるとか頭おかしいんじゃないの”

今まで言われてきた罵倒が頭を過ぎる。




小学生の時に一度、仲良くなった女の子に霊が見えると話したことがある。

中学生の時にも。

いつも私は信じてしまう。
そして痛い目を見るのは私自身だ。


こんなことを話して、普通に信じてもらえるなんて、もうそんなこと思ってもいない。


「吉田くん迷惑してるじゃん 気付かないの?」
「存在がウゼーんだよ。消えろ」



消えろ


どうしてそこまで言われなきゃいけないの。



『……』



でも何も言えず俯き、言葉を飲み込んでしまうのは、

私が弱虫だから。



そんな私を見て鼻で笑って去っていく。その砂を蹴る足音を聞いてようやく顔を上げることが出来た。


彼女達の背中を居なくなるまで見つめてしまう。

分からないからそんな心の無いことを言うんだよ。

一度霊に取り憑かれてみたら分かるのに。


目にでも取り憑かれてしまえば、私の怖さだって、理解してもらえるかもしれない。

悔しい気持ちで私に酷い言葉をぶつけた女の子を睨むけれど、何かが変わるわけもなく彼女達はクラスがある棟へと入っていった。


呪われてしまえばいいと少し思った。


だけどそんな力、私には無いからムカつくなって思うけど、帰りにアイスクリームでも食べよう。


そうしたら全てを忘れられる。



『吉田くん、誘ってみようかな』



もしかしたらまだ教室にいるかも。
なんて思ったけれど



“吉田くんってめちゃめちゃ人気あるんだよ?”


モモちゃんの言葉を思い出す。

もうさっきみたいなあんな嫌な目には合いたくないなぁ。


『たまには一人で食べちゃおう』



そんな日もあって、いいはずだ。




2020.11.30