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とある夜。
その日ビームはマキマに頼み込んで名前の家に泊まっていた。

だが名前はその日虫の居所が悪く、感情をあまり見せない彼女にしては珍しくイラついていた。
日中に以前組んでいた男の恋人だと自称する女性と偶然鉢合い、


「彼が死んだのはアンタのせいだ」


と頬を叩かれたせいか。(叩かれた痛みで呆然としている暇は無く、ビームがその女性に飛び掛からないように宥める方が先だったが)

はたまた、事務局に行った際に魔神差別をすると有名なおじさん事務員にビームとの性生活についてセクハラ紛いなことを言われ、感情を見せないように落ち着いて交わした時のストレスからか。



とにかく名前は疲れてイラついていた。

いつもと違う名前を心配したビームが肩に手を置いた時につい払い除けてしまったのだ。すぐに我に返った名前も謝ったが、ビームの酷く悲しげに俯く姿が忘れられない。自己嫌悪になった彼女は一言呟いた。


『死んだら、楽になるのかな』
「ダメ!!!!!」


その言葉にビームは激情した。
ビームは名前に怪我させないように、死なせないように悪魔から守ってきた。
それから接する時だって力加減を必死に考えながら優しくそっと、壊さないように触れてきた。

そんな大好きな相手自ら死を望むようなことを言われたので気持ちがぐちゃぐちゃになったのだ。




理性が崩れ、悪魔の姿になる。

距離感を掴めず名前を床に押し倒したその瞬間顔にビームの歯が当たり傷を付けた。重力に沿ってたらたらと名前の頬から血が流れる。口内に広がる名前の血液の味をビームはこの先ずっと忘れないだろう。

弾かれるように名前から飛び退いたビームは


「あっ、あぁ、ナーちゃん、どうしよ、俺、俺…」


と目を点にする名前に触ることも、どうしたら良いのかも分からず狼狽える。

名前が感じていたのは歯が当たった頬のじくりとした痛みと、
焦燥だった。




『(まずい。これはまずい。)』





マキマには



“ビームがもしも害のない市民を傷付けた時は処分することになってるから。
勿論苗字ちゃんが怪我させられた時もだよ”



と口を酸っぱくして言われている。


名前が傷をつけて明日出勤してマキマと顔を合わせ、傷を見られればすぐにビームの仕業だと気付くだろう。

運の悪いことに明日は内勤でマキマに提出しなければならない書類もある。


名前を待つのは地獄か、
はたまた二度と来ないかもしれない日常か。




2020.10.13