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「苗字さん、これ良かったらいりませんか」


対悪魔課の自販機の傍にあるベンチに座る名前に近づいたアキは何かが入った袋を渡した。
近くにいたビームは慌てて名前とアキの間を憚るように割り込んで入ってきた。


「ラブレターお断り!!!」
「何言ってんだお前」
『あ、唐揚げだ』


袋の中身はタッパーに入った唐揚げだった。


『沢山あるね』
「デンジとパワーが沢山食うと思って作ったんですけど、多すぎたので。
苗字さん揚げ物食いますか」
『うん。よく食べるよ。』
「良かった。」


アキのその一言を機に会話が止まる。名前はじっと袋を開けて唐揚げが入ったタッパーを見つめている。

二人の間に沈黙が生まれる。

アキはこの沈黙を窮屈に感じた。何せ姫野やデンジ、パワーは静かにしろと言っても喋り続ける部類だ。アキはあまり親しくない者へ自分から話題を振ることは得意ではなかった。

それは一、二分。もしくは数十秒の間だったかもしれない。しかしアキにはとてつもなく長く感じた。

すると、名前が口を開く。


『…そういえば岸辺さんに呼ばれてるんだった。行ってくるね』
「あぁ、はい」
「ナーちゃん!!俺は!?」
『呼ばれてるの私だけだから、ビームくんは適当にしてて。終わったら呼びに来るね』
「ハイッ!」
『早川くん。唐揚げ、本当にありがとう』
「いえ」



その顔は無表情だった。

名前は両手で袋を持ち、アキに背を向けて廊下を歩いていく。







「俺、苗字さんを怒らせたのか?」
「え?何で?」
「あまり嬉しそうじゃなかった。
苗字さんて揚げ物苦手だったのか」
「え!何で!?ナーちゃん喜んでる!あんなに喜ぶの珍しい!」


アキはビームの言葉に耳を疑った。


「あれ、嬉しそうだったのか?」
「ナーちゃん嬉しそう!俺分かる!」


アキは先を行く名前の背中を見つめる。
さっきの無表情のどれを見れば喜んでいると分かったのだろうか。
それでもビームには分かるのだから、不思議だ。魔人にしか読み取れないオーラでもあるのだろうか。

だが、彼女の両手には唐揚げのタッパーをいれた袋が丁寧に持たれていたのをアキは思い出す。


「…お前、苗字さんのことよく見てるんだな」
「俺、ナーちゃん大好き!!」
「意外と観察力あるな」


アキはビームのサメ頭を見つめた。ビームはアキの言葉をよく理解しておらず、どういうことだといった顔をしている。


「ナーちゃん、揚げ物好き!!前、俺が山で取ってきたイノシシ、家で切ってトンカツにして食べた!!」
「へぇ…」


ビームなりのアキへの慰め方なのだろう。
職場の先輩の意外な一面を知った瞬間であつた。

苗字さん、イノシシ捌けるのかよ。



2020.10.09