There is more pleasure in loving than in being beloved. 人を愛する喜びは、愛される喜びよりも、遥かに強い。 Thomas Fuller(トーマス・フラー) . . . side:心 『心さん、私お仕事を再開しようと思ってるの』 今日もあたたかい笑顔を俺に向ける名前。 毎日見てても飽きない。いつ見ても俺好みだ。 コイツの為なら何だってしてやりたい。 名前の願いならなんでも叶えてやりたい。 だが、 「絶対ダメに決まってんだろ」 『えーん』 しくしくと泣き真似をする名前も可愛いが、こればかりは許せない。 「ママ!親父にいじめられたのか!?」 『いじめられてる』 「死ね!クソ親父!」 「お前名前から産まれてきたからって調子に乗んなよ」 俺のガキの頃をそっくりそのままコピーしたみたいな俺と名前の子、凸。母親想いの可愛い奴だが、性格は俺と悪魔の血をかき混ぜて注いだようだ。名前の血は本当に入っているのだろうか。 「ママ、パパはママがお腹が大きいから心配してるのよ?あたしもママと赤ちゃんが心配だよ?」 『ありがとう凹』 名前の血はきっとこの凹の方に10割いったんだ。じゃないと説明が付かない。双子の娘の方だけは名前に似て良かったよ。見た目はやっぱり俺のガキの頃そっくりだけど。 よしよしと母親のでかくなった腹にそっと抱きつく凹の頭を撫でれば「ね、パパ」と笑顔を俺に向ける。 娘は可愛い。 「そうだ。もうちょっとで産まれるかもしんねぇだろ。どうすんだあの車ン中で陣痛来たら。あの中で産むのか?」 『まだ生まれないよ、大丈夫』 「ママ!おれ、赤ちゃんは男がいい!子分にする!」 「何言ってんだ、お前みてぇなのがもう1人増えると思うとコワすぎるよ」 「何でだよっ!」 「お前今朝ビルぶっ壊したの忘れたのか。後で自分で煙さんの所行けよ」 「親父もついてきてよぉ!」 「やだよ」 「あたしは女の子がいいなぁ!能井ちゃんみたいな強い女の子にしようね!」 『そうね!それもいいわね!凹も能井ちゃんみたいに強くなるのよぉ』 「うんっ!」 「えぇ…?」 娘が能井みたいな大女になるのか… 強くなるのはいいが、俺を担げるようになるのか…? 「……凹の好きにしな」 娘は可愛い。 『心さんはどっちがいい?男の子?女の子?』 「あー…」 もう両方いるからな。 どっちでもいいな。 「……名前との子どもならどっちだって可愛いよ」 つい、クソみたいな甘っちょろい言葉が出てしまった。 恥ずかしい。仕事仲間には絶対に聞かれたくない。 もちろん能井にも。 でも名前は嬉しそうにまた笑って、俺に近づき頬にキスをした。 『ふふ、私も。同じこと考えてた』 「そうかよ」 目を合わせれば、やっぱり愛しくて名前の健康的に桃色になった丸い頬にキスを返す。 『どんな子が産まれるのか、楽しみだね』 . . . それから少しして産まれたのは娘だった。 名前は二井。 二番目に産まれたから。井は能井から。名前がらどうしても、とせがんだから。 双子の時は出産までに66時間掛かったが、今回はそこまで長くは掛からなかった。初産の時は体力が残っておらず瀕死状態だった名前も、今回はまだ気力が残っているようで産んですぐでも俺に笑顔を向けて『心さん、抱っこしてあげて』と赤ん坊を渡してくれた。 そして出産して次の日。 「二井ちゃあん、煙おじちゃんでちゅよぉ」 「気持ち悪ィんだよ煙!!二井から離れろ!!」 「声落とせよ、起きるだろ」 「あっ!すみません先輩!煙のせいだクソ野郎」 二井が寝るベビーベッドに向かいはしゃぐ煙さん、そして能井。名前はそんな2人をにこにこと楽しそうに見ている。 「名前、体調はどうだ?きついか?何か食い物いる?名前の好きな林檎は買ってきたけど…」 『ふふ、ありがとう能井ちゃん』 「大事な体だ。退院したら俺が最高級の肉を用意してやるからな。二井のためにも良い物を食え」 『煙もありがとう』 穏やかな笑みを浮かべる名前。 まだ体力は完全に復活してないだろうに、どうしてこんなにも他人に優しくなれるんだろうか。 この答えはすでに数年前理解した。 女神だからだ。地獄があるなら天国もあるはずだ。だとしたら名前は天国に行く。そして永遠に女神として崇められる存在だろう。 「先輩はいつから仕事復帰するんで?」 「ア?名前が退院して、煙さんの所での生活が落ち着いたらだよ。それまで俺が近くにいる」 「お前がいても何の手助けにもならんだろう。なぁ名前」 「何言ってんだ!名前も先輩がいたら安心だな!何があっても守ってもらえるもんな!」 『そうよ? それに、近くにいてくれるだけで安心するからいいの。ね、心さん』 「女神かよ」 それを言ったのは能井だ。 同じことを思ったが、俺じゃない。 「まぁとにかく、俺の屋敷に来ても十分にもてなす準備は出来てるからいつでも来い。」 『本当にお世話になっていいの…?双子の時みたいに夜泣きだってするのよ?』 「夜泣きなんて可愛いものだ。今の凸を見ろ。昨日なんてまた勝手に俺の箒に乗って悪魔堂をぶっ壊していたぞ」 「『……』」 「アイツは絶対にうちのファミリーに入れろ。役に立つ」 「就職先があってよかったな、名前」 『そうね、無いよりマシね』 「マシとか言うなよ」 そして煙さんはこの後も仕事があるとかで出ていった。能井は名前に 「何かあったらいつでも言えよ?双子ならオレや藤田や他の奴らも、皆で面倒見てるから気にすんな?」 『ありがとう能井ちゃん』 「いいよ。……赤ん坊に、オレの名前を入れてくれて、ありがとう。先輩も、ありがとうございます」 「おー」 『能井ちゃんのこと、大好きだっていつも言ってるでしょう?この子にも私の大好きな能井ちゃんみたいに強くて逞しくてステキな女の子になってほしいの。ねえ、ニ井ちゃん』 そう名前が寝ている赤ん坊に指を伸ばせば、その指輪を小さな掌が掴んだ。 母親の声はよく聞こえているんだろうか。 不思議だ。 「オレも名前が大好きだよ!……退院したら、1回だけでいいからさ、部屋に泊まりに来ていい?」 『もちろんよ!一緒のお布団で寝ましょ!子どもの時みたいに!』 「へへ!あ、その時は先輩は別の部屋に行ってくださいね!」 「分ァってるよ」 じゃ!と能井が嵐のように去っていくと、部屋は俺と名前と赤ん坊だけ。いっきに静かになった。 「…相変わらず仲良いな、お前ら」 『ふふ。やきもち?』 「ンなわけねーだろ」 『ふふ』 軽やかに笑う名前。 俺はずっと名前のそばにある一人掛けのソファーに据わっていたが、立ち上がり赤ん坊の元へ寄る。 見下ろせば、まだ生まれて間もない小さな赤ん坊が小さく肺を膨らませて静かに寝ていて。 「…ニ井ちゃぁん、パパだよー」 小さな掌を指で振れれば、俺の指も握った。 感動だ。 双子の時にも同じことをして同じように感動しているはずなのに。 餓鬼は嫌いだが、自分の子どもは格別だ。 あまりに愛おしすぎる。 『みんなの前でもめろめろ心さんのままでいいのに。二人でいる時以外でもやってていいのよ?私は好き』 「出来るか」 『そう?……もし、ニ井ちゃんが大きくなって彼氏を連れてきたら心さん怒りそうね』 「怒る前にそいつを殺すよ」 『ニ井ちゃんが好きになった人なのに?』 「ニ井は俺と凸以外の男には関わらないからいいんだよ。もちろん凹も」 『パパが過保護でこの子達も大変ね』 娘達に男だって? 反吐が出る。 end. |